「うちは労働災害を起こしていないのに、経審の点数が伸びない」。逆に「災害を起こしたら経審の点数が下がるのか」。どちらの相談も、経営事項審査(経審)の枠組みを正確に理解していないまま出てくることが多い。経審は完成工事高や技術者数など複数の客観的事項を総合して評価する制度であり、労働災害の有無だけで点数が決まる仕組みではない。この誤解を解くには、まず制度の全体像を押さえておく必要がある。
この記事では、経営事項審査という制度の全体像と、労働災害・監督処分が評点にどう関わりうるか、そして準備すべき書類を整理する。断っておくと、評点の具体的な計算式には立ち入らない。発注者や年度によって運用細部が変わるため、ここでは審査項目の存在と、災害が影響しうる経路を説明することにとどめる。
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経営事項審査の枠組み
経営事項審査とは、公共性のある施設又は工作物に関する工事(公共工事)を発注者から直接請け負おうとする建設業者が、必ず受けなければならない審査である(出典:国土交通省「経営事項審査及び総合評定値の請求について」)。建設業法に基づく建設業許可を受けた者が対象で、公共工事の発注機関は、この審査結果を含めて競争参加資格の格付けを行っている(出典:e-Gov法令検索 建設業法)。
審査は大きく2つの領域に分かれる。1つは経営状況の分析(国土交通大臣が登録した経営状況分析機関が行う)、もう1つは経営規模、技術的能力その他の客観的事項についての評価(経営規模等評価)である。両者の結果を組み合わせて、総合評定値が算出される仕組みになっている。
経営事項審査を受けた結果である総合評定値は、これまで審査体系に組み込まれていたが、過去の法改正により審査体系から切り離され、許可行政庁が行う計算事務として位置づけられている。発注者によっては、総合評定値の請求そのものを義務づけている場合もある点は、押さえておきたい。
申請の窓口も、許可の種類によって異なる。国土交通大臣許可の業者は本店所在地を管轄する都道府県知事を経由して地方整備局長等へ、都道府県知事許可の業者は許可を受けている都道府県知事へ、それぞれ申請書類等を提出する流れになる。
労働福祉の状況という項目
経営規模等評価のなかには、社会性等に関する評価区分があり、そのなかに労働福祉の状況という項目が含まれている。ここでは、退職金制度の導入状況、法定外労災保険への加入状況、若年技術者の育成・確保に関する取り組みなど、企業として労働者の福祉にどう取り組んでいるかが確認される。
本記事では、この項目に含まれる評価要素の存在までを扱い、具体的な配点や計算式には触れない。 制度改正のたびに見直される部分であり、最新の内容は登録経営状況分析機関や許可行政庁への確認が必要になる。数字だけを追いかけて対策を立てようとすると、改正のたびに前提が崩れてしまうため、まずは項目の存在と趣旨を理解しておくほうが実務としては安定する。
災害が評点に効く経路
労働災害の発生そのものが、経営事項審査の点数に直接反映されるわけではない。ただし、重大な災害を契機として建設業法上の監督処分(指示処分・営業停止処分等)を受けた場合、その事実は経営規模等評価のなかの法令遵守の状況という項目で、減点の対象になりうる(詳しくは元請の指名停止はどこで決まるかで整理している)。
つまり、災害の発生から評点への影響は、「災害→監督処分→経審の減点」という経路をたどることが多く、災害そのものが自動的にスコアを動かす直接の項目ではない。この構造を理解しておくと、なぜ同じような規模の災害でも、行政処分の有無によって評点への影響が変わってくるのかが説明しやすくなる。
裏を返せば、災害を起こしても行政処分に至らなければ、経営事項審査の評点に直接反映されない場合もあるということになる。だからといって、監督処分を避けることだけを目的に安全管理を軽視してよいわけではない。処分の有無にかかわらず、災害そのものを減らす取り組みが、事業の継続性を支える土台であることに変わりはない。
加点につながる認定・制度
労働福祉の状況の項目以外にも、社会性等の評価区分には、防災協定の締結状況や、ISO9001・ISO14001等の認証取得状況など、複数の加点要素が含まれている。安全衛生に関する取り組みそのものを直接加点する項目があるかどうかは、年度ごとの改正内容によって変わりうるため、最新の審査基準を確認する必要がある。
いずれにせよ、加点を狙って場当たり的に制度へ加入するのではなく、日頃からの安全衛生への取り組みを、審査の際に説明できる形で残しておくことが土台になる。
書類として何を用意するか
経営事項審査の申請では、決算関係書類、工事経歴書、技術者名簿など多岐にわたる書類の提出が求められる。労働福祉の状況の項目に関連しては、退職金制度の導入を示す書類や、法定外労災保険の加入証明などが必要になる場合がある。これらの書類は総務・経理部門が管理していることが多く、現場側の記録とは別の担当者が動くことになるため、申請時期が近づいてから慌てて連携を取るのではなく、日頃から情報を共有できる体制を整えておきたい。
監督処分の有無に関わる部分では、過去の処分歴の有無を証明する書類の提示を求められることもある。日頃から施工体制台帳を適切に整備しておくことは、こうした審査対応の土台にもなる(詳しくは施工体制台帳の作り方で整理している)。
書類のなかには、社会保険の加入状況を証明するものも含まれる。近年の改正で、社会保険への加入状況が審査対象として重視されるようになっており、労働福祉の状況の項目とあわせて、労働者を取り巻く条件全般が審査の視野に入っていることがうかがえる。自社の加入状況を証明する書類が最新のものかどうか、申請の都度確認しておく必要がある。
準備の時期
経営事項審査は、決算日から一定期間内に申請する必要があり、申請の遅れは公共工事への入札参加資格そのものに影響する。決算を迎える数か月前から、必要書類の洗い出しと、労働福祉の状況に関連する制度加入状況の確認を始めておくと、申請直前になって慌てる事態を避けられる。
とくに退職金制度や法定外労災保険への加入は、申請の直前に慌てて手続きしても、加入の実績期間そのものが評価に関わる場合がある。単年度の準備で間に合わせようとするのではなく、複数年にわたる継続的な取り組みとして位置づけておくほうが現実的である。
制度の詳細や個別の適用は、発注者の定める基準および所轄の行政機関にご確認ください。
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よくある質問
Q. 労働災害を起こすと、経営事項審査の点数は必ず下がりますか
災害の発生そのものが自動的に点数を下げるわけではありません。ただし、災害を契機に建設業法上の監督処分を受けた場合は、法令遵守の状況という項目で減点の対象になりえます。個別の判断は許可行政庁の運用によります。
Q. 労働福祉の状況の項目には、具体的にどんな配点がありますか
本記事では配点や計算式には触れていません。制度改正で見直される部分のため、最新の内容は登録経営状況分析機関や許可行政庁に確認してください。
Q. 経営事項審査はいつ受ければよいですか
決算日から一定期間内に申請する必要があります。公共工事への入札参加を予定している場合は、決算前から必要書類の準備を始めておくことをおすすめします。