移動式クレーンの転倒とは、荷をつり上げた状態でクレーン本体が横倒しになる災害をいい、運転者だけでなく周囲の作業員を巻き込む重大災害に直結します。この記事では、アウトリガーの張り出しと地盤という2つの観点から、移動式クレーンがなぜ転倒するのかを整理します。
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移動式クレーンはなぜ転倒するか
移動式クレーンは、荷をつり上げる側と反対側にアウトリガーを張り出し、その支持力で全体のバランスを保つ構造になっています。転倒は、このバランスが崩れる方向に力が偏ったときに起きます。偏りが生まれる主な原因は、アウトリガーの張り出しが足りないこと、地盤がアウトリガーの荷重に耐えられないこと、作業半径が計画より伸びてしまうことの3つに大別できます。
クレーン等安全規則第七十条の三は、地盤が軟弱であること、埋設物その他地下に存する工作物が損壊するおそれがあること等により移動式クレーンが転倒するおそれのある場所では、必要な広さ及び強度を有する鉄板等を敷設し、その上に設置している場合を除き、移動式クレーンを用いて作業を行ってはならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 クレーン等安全規則)。地盤の状態は、転倒の可否を左右する前提条件として法令上も位置づけられているということです。
アウトリガーの最大張出し
クレーン等安全規則第七十条の五は、アウトリガーを有する移動式クレーン又は拡幅式のクローラを有する移動式クレーンを用いて作業を行うときは、当該アウトリガー又はクローラを最大限に張り出さなければならないと定めています。ただし、最大限に張り出すことができない場合であって、掛ける荷重がアウトリガー等の張り出し幅に応じた定格荷重を下回ることが確実に見込まれるときは、この限りでないともされています(出典:e-Gov法令検索 クレーン等安全規則)。
現場が周囲の障害物や道路幅の制約で最大限の張り出しができない場面は珍しくありません。そのときに求められるのは、張り出し幅を短くした分だけ定格荷重を下げて作業することであり、張り出し不足を作業半径や吊り荷重で補おうとする判断は転倒に直結します。張り出し幅と定格荷重は連動しているという理解が前提になります。
地盤と敷板の考え方
クレーン等安全規則第七十条の四は、アウトリガーを使用する移動式クレーンを用いて作業を行うときは、当該アウトリガーを鉄板等の上で、移動式クレーンが転倒するおそれのない位置に設置しなければならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 クレーン等安全規則)。
敷板は、アウトリガーの支持力を地盤全体に分散させるための部材です。敷板を用意していても、敷板と地盤の間に空隙があったり、敷板の面積がアウトリガーの荷重に対して不十分であったりすると、支持力は分散されず、一点に荷重が集中したまま沈下が始まります。埋め戻したばかりの土や、大雨の後で含水率が上がった地盤は、見た目では硬く見えても支持力が大きく落ちていることがあり、敷板の面積を広げる、あるいは設置位置を変えるといった判断が必要になります。
定格荷重は作業半径で変わる
移動式クレーンがつり上げられる荷重の上限は、常に一定ではありません。ジブを伸ばし、作業半径を大きくするほど、同じクレーンでもつり上げられる定格荷重は小さくなります。クレーン等安全規則第六十九条は、移動式クレーンにその定格荷重をこえる荷重をかけて使用してはならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 クレーン等安全規則)。
作業の途中でクレーンの位置を動かさずに、荷を吊ったまま少し遠くへ届かせようとしてジブを伸ばす場面は、作業半径が計画より伸びる典型的な状況です。定格荷重は作業半径ごとに定められており、荷重表を確認しないまま半径を変えると、知らないうちに過負荷の状態で作業を続けることになります。
作業計画という義務
クレーン等安全規則第六十六条の二は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、転倒等による労働者の危険を防止するため、あらかじめ、作業に係る場所の広さ、地形及び地質の状態、運搬しようとする荷の重量、使用する移動式クレーンの種類及び能力等を考慮して、作業の方法、転倒を防止するための方法、労働者の配置及び指揮の系統を定め、作業の開始前に関係労働者へ周知させなければならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 クレーン等安全規則)。
作業計画は、書類として作成すること自体が目的ではありません。地盤の状態や作業半径の見積りといった、転倒を左右する要素をクレーンを据える前に洗い出しておくための手続きです。計画にない位置へクレーンを移動させる、計画にない半径まで作業を広げるといった現場の判断が、計画と実際の作業のずれを生みます。
合図者と立入禁止
転倒の予兆は、クレーンがわずかに傾く、アウトリガーの下の敷板が沈むといった形で、作業半径の外からのほうが気づきやすいことがあります。合図者は、荷の誘導だけでなく、こうした予兆に気づく役割も担っています。
移動式クレーンの旋回範囲やつり荷の下は、転倒時に人が巻き込まれる範囲でもあります。立入禁止の区域を旋回範囲より狭く取ってしまうと、転倒が始まった瞬間に逃げ場のない位置に人が残ることになります。区域の範囲は、旋回半径だけでなく転倒したときに機体が届く範囲まで考えて決める必要があります。
転倒事故の共通点
移動式クレーンの転倒事故を振り返ると、アウトリガーの張り出し不足、地盤の支持力不足、作業半径の見積り違いという3つの要因のうち、単独ではなく複数が重なっているケースが多く見られます。狭い敷地でアウトリガーを最大限に張り出せず、かつ埋め戻した地盤の上に敷板を置き、かつ荷を少しでも遠くへ届かせようとジブを伸ばすといった組み合わせです。
どれか1つを守っていれば防げたはずの場面でも、複数の要因が同時に働くと転倒に至ります。作業前の計画の段階で、この現場は3つのうちどこに弱点があるかを具体的に洗い出しておくことが、転倒を防ぐ最も現実的な備えになります。
移動式クレーンの過負荷そのものについては、クレーンの過負荷はなぜ起きるかにまとめている。玉掛けの資格については玉掛けの資格を参照してほしい。毎日のKY活動をどう記録に変えるかは、毎日のKY活動を記録に変えるを参照してほしい。
本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士等の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- クレーン等安全規則第七十条の三は、軟弱な地盤等で転倒のおそれがある場所での作業を、鉄板等の敷設が無い限り禁じています
- 第七十条の五は、アウトリガー等を最大限に張り出すことを義務づけ、張り出せない場合は定格荷重を下げる必要があるとしています
- 第六十九条は定格荷重をこえる荷重をかけて使用することを禁じ、定格荷重は作業半径によって変わります
- 第六十六条の二は、作業開始前に地盤や作業半径を考慮した作業計画を定め、関係労働者に周知することを義務づけています
- アウトリガー不足・地盤の支持力不足・作業半径の見積り違いは、複数が重なったときに転倒へつながりやすくなります
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よくある質問
Q. アウトリガーを最大限に張り出せない狭い現場では、どうすればよいですか
クレーン等安全規則第七十条の五は、最大限に張り出せない場合、張り出し幅に応じた定格荷重を下回ることが確実に見込まれるときに限り、作業を認めています。荷重表で張り出し幅ごとの定格荷重を確認し、その範囲内で作業を計画する必要があります。
Q. 敷板を敷いていれば、どんな地盤でも作業できますか
敷板は支持力を分散させるための部材であり、地盤そのものの支持力を無条件に補うものではありません。埋め戻した土や含水率の高い地盤では、敷板の面積や設置位置を見直す必要があります。
Q. 作業計画は毎回書類として作成しなければなりませんか
クレーン等安全規則第六十六条の二は作業計画を定め、関係労働者に周知することを求めています。様式や作成方法についての詳細は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。