脚立・はしごからの墜落とは、脚立の天板や上段に乗る、あるいは移動はしごが動いて足を踏み外すことで起きる転落災害である。厚生労働省が公表した令和7年の労働災害発生状況(確定値)によると、建設業における「墜落・転落」による休業4日以上の死傷者数は4,343人に上り、事故の型別で最も多くなっています(出典:厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定)」)。この記事では、脚立・はしごに絞って、繰り返し起きる場面と現場で押さえておきたい点を整理します。
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脚立・はしごの災害が減らない理由
脚立とはしごは、足場を組むほどではない短時間・低所の作業で使う道具として、どの現場にも必ず置いてあります。天井の点検、配線の一時的な接続、看板の取り付けなど、数分で終わる作業に足場を組む判断はまず出てきません。この「すぐ済む」という感覚が、脚立・はしごの災害が減らない最大の理由です。
高さ2メートルに満たない作業であっても、頭から落ちれば重大な負傷につながります。にもかかわらず、脚立・はしごは特別教育も資格も要らない道具として扱われがちで、正しい使い方を体系的に教わる機会がないまま現場に持ち込まれています。
天板に乗ってはいけない根拠
脚立の天板とは、脚立の最上部にある平らな板のことで、本来は踏み面として設計された部分ではありません。労働安全衛生規則第528条は、脚立について、丈夫な構造とすること、脚と水平面との角度を75度以下とすること、踏み面は作業を安全に行うため必要な面積を有することなどを定めています(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。この条文が定める「踏み面」は、脚立の段(ステップ)を指しており、最上部の天板を昇降・作業のための踏み面として想定したものではありません。
天板は面積が限られ、しかも脚立の重心の真上にあります。天板に立つと、両足の位置が脚立の開き角度で決まる範囲の外に出やすく、わずかな体重移動でバランスを崩します。天板の上での作業は、脚立という道具の構造そのものが想定していない使い方だと理解しておく必要があります。
はしごの設置角度と上端の突出
労働安全衛生規則第527条は、移動はしごについて、丈夫な構造とすること、材料に著しい損傷・腐食等がないこと、幅は30センチメートル以上とすること、すべり止め装置の取付けその他転位を防止するために必要な措置を講ずることを定めています(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。
この条文は、はしご本体が満たすべき構造を定めたものであり、現場でどう据えるかは使う側の判断に委ねられています。寝かせすぎれば足元が滑りやすくなり、立てすぎれば後方に倒れやすくなるため、安定して昇降できる角度で据える必要があります。上端についても、昇り降りの際に手で確実につかめる位置まで届いているかを、はしごを掛けるたびに確認する必要があります。地面が平らでない場所、コンクリートの上、雨で濡れた床では、すべり止め装置があっても効果が薄れるため、据え付けた直後にぐらつきがないかを必ず確かめてから昇る習慣が欠かせません。
脚立をまたいで作業する危険
脚立をまたいで作業するとは、脚立の左右どちらか一方の面だけに立たず、開いた脚立の両側にまたがるように立つ、あるいは天板をまたいで反対側の段に足を掛ける使い方を指します。この姿勢は、脚立が本来支えるはずの荷重の向きと、実際にかかる体重の向きがずれるため、脚立が傾いたり開いたりする力が働きやすくなります。
配線や配管の作業では、少し離れた場所に手を伸ばしたいという理由で、脚立をまたぐ、あるいは脚立の上で体をひねって作業する場面が繰り返し見られます。手が届かない位置には、脚立を動かしてから昇り直すという手間を惜しまないことが、またぐ・伸びるという動作そのものを避ける唯一の方法です。
2人で押さえるという運用の限界
脚立がぐらつく、床が平らでないといった場面で、もう一人が脚立の脚を手で押さえるという運用が現場では広く行われています。この方法は一定の効果がある一方で、限界もあります。押さえる側の力が、脚立が倒れようとする力に対して常に間に合うとは限らず、押さえる側自身が他の作業から目を離して脚立だけに集中しなければならないという負担も生まれます。
2人で押さえるという運用は、床が平らでない・脚立を安定させる時間がないといった一時的な事情への対応であって、恒常的な対策として位置づけるべきものではありません。同じ場所で繰り返し作業するのであれば、脚立を持ち込む前に、床を平らにする、あるいは次に挙げる道具に置き換えることを検討する必要があります。
代わりに何を使うか
労働安全衛生規則第526条は、高さ又は深さが1.5メートルを超える箇所で作業を行うときは、安全に昇降するための設備等を設けなければならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。脚立・はしごはこの「昇降するための設備」の一つですが、唯一の選択肢ではありません。
作業時間が長い、同じ位置での作業が繰り返される、天井際に手を伸ばす作業であるといった場合は、天板を使わずに済む可搬式作業台や、脚立よりも作業床が広い折りたたみ式の足場への置き換えが検討に値します。作業の性質や頻度に応じて、脚立・はしごを使うべき場面と、それ以外の設備に置き換えるべき場面を切り分けておくことが、天板に乗る・またぐといった無理な使い方を減らす近道です。
教育で伝えること
脚立・はしごの災害を減らす教育で伝えるべき点は、道具の使い方そのものよりも、「なぜ天板に乗ってはいけないか」「なぜまたいではいけないか」という理由の部分です。禁止事項だけを伝えても、急いでいるときや一人しかいないときには守られません。
天板に乗った瞬間にどちらへ体重が偏るか、はしごの上端が届いていないとどこで手が空を切るかといった、具体的な失敗の仕組みを短い映像や実例で見せることが、理解を記憶に残す方法として有効です。朝礼の数分で、今日の作業に脚立・はしごを使う予定があるかどうかを確認するだけでも、天板に乗る・またぐといった判断が起きにくくなります。
毎日のKY活動をどう記録に変えるかは、毎日のKY活動を記録に変えるを参照してほしい。フルハーネスなど墜落制止用器具の使い方は、フルハーネス義務化の「その後」にまとめている。
本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士等の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- 建設業における「墜落・転落」の死傷者数は令和7年で4,343人と、事故の型別で最多です(令和7年確定値、厚生労働省)
- 労働安全衛生規則第528条が定める脚立の踏み面は段(ステップ)を指し、天板を踏み面として想定していません
- 労働安全衛生規則第527条は移動はしごの構造(幅30センチメートル以上、すべり止め装置等)を定めています
- 脚立をまたぐ動作は、脚立が支える荷重の向きと体重の向きがずれ、傾き・開きの力を招きます
- 2人で押さえる運用は一時的な対応であり、恒常的な作業には可搬式作業台等への置き換えを検討します
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よくある質問
Q. 脚立の天板に乗る作業は絶対に禁止ですか
労働安全衛生規則第528条は脚立の踏み面等の構造要件を定めていますが、天板への昇り方そのものを直接禁止する条文ではありません。天板は踏み面として設計された部分ではなく、乗ることを前提としない構造であるため、天板を使わずに済む方法を優先する必要があります。個別の作業での可否は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
Q. 脚立とはしごはどちらが安全ですか
どちらが安全かは作業の内容によって変わります。脚立は自立するため据え付けは容易ですが天板での作業に限界があり、はしごは上端の位置と設置角度の管理が欠かせません。作業の高さと時間に応じて選ぶ必要があります。
Q. 2人一組で脚立を使えば天板に乗ってもよいですか
2人一組で押さえることは、ぐらつきなど一時的な事情への補助であり、天板に乗ることを安全にする措置ではありません。天板を使わずに済む作業台等への置き換えを優先してください。