クレーンの過負荷とは、クレーンがつり上げられる上限の荷重を超えた状態で作業を行うことをいい、ワイヤロープの切断やクレーン本体の転倒に直結する重大な違反行為です。この記事では、過負荷がなぜ起きるのか、定格荷重と作業半径の関係を中心に整理します。
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定格総荷重と定格荷重の違い
クレーンのカタログや性能表には、「定格総荷重」と「定格荷重」という似た2つの言葉が並びます。定格総荷重は、フックやワイヤロープなど、荷をつるための用具の重さを含めた、クレーンがつり上げられる荷重の総量を指します。定格荷重は、この定格総荷重から、フック・ワイヤロープ等の用具の重さを差し引いた、実際につり上げられる荷そのものの重さを指します。
この違いを理解していないと、荷の重さだけを定格総荷重と比べて「まだ余裕がある」と判断してしまい、玉掛け用具の重さを加えた実際の総荷重が定格総荷重を超えていることに気づかないまま作業を始めてしまいます。
作業半径が伸びると吊れなくなる
移動式クレーンの定格荷重は、一定の値ではなく、作業半径(クレーンの旋回中心からつり荷までの水平距離)によって変わります。作業半径が大きくなるほど、同じクレーンでもつり上げられる定格荷重は小さくなります。
クレーン等安全規則第六十九条は、移動式クレーンにその定格荷重をこえる荷重をかけて使用してはならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 クレーン等安全規則)。荷を吊ったまま作業半径を変えると、荷の重さは変わらなくても、その位置での定格荷重が変わり、結果として過負荷の状態に入り込むことがあります。ジブを伸ばす、あるいはクレーンの位置を動かさずに旋回して届く範囲を広げるといった操作は、作業半径を変える操作にほかなりません。
荷重表の読み方
荷重表は、作業半径ごとにその位置で使える定格荷重を示した一覧表です。表を正しく読むためには、まずその日の作業半径がどの位置になるかを、ジブの長さと角度から把握しておく必要があります。表の数値は、アウトリガーを最大限に張り出した状態を前提にしていることが多く、張り出しが不足していれば、表の数値どおりにはつり上げられません。
クレーン等安全規則第七十条の二は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、運転者及び玉掛けをする者が当該移動式クレーンの定格荷重を常時知ることができるよう、表示その他の措置を講じなければならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 クレーン等安全規則)。運転者だけでなく、玉掛けをする者も定格荷重を把握している状態が前提であり、どちらか一方だけが知っていればよいという条文ではありません。
過負荷防止装置を切る現場
多くの移動式クレーンには、定格荷重に近づくと警報が鳴り、超えると動作を自動的に止める過負荷防止装置が備わっています。しかし、警報が頻繁に鳴って作業が進まないことを理由に、この装置を無効化した状態で使い続ける現場が実際に見られます。
過負荷防止装置は、運転者の判断の誤りや荷重表の読み違いを補う最後の砦です。装置が鳴ったということは、その時点の作業半径と荷重の組み合わせが定格荷重を超えつつあることを示しており、装置を切ることは、この警告そのものを消してしまう行為にほかなりません。装置が頻繁に鳴るのであれば、作業計画そのものを見直す必要があるという合図として受け止める必要があります。
玉掛け用具の重さも荷重に入る
つり上げる荷の重さだけを基準に定格荷重と比べる判断は、過負荷を見落とす典型的な原因です。玉掛けに使うワイヤロープ、シャックル、吊り具そのものにも重さがあり、これらは荷とあわせてクレーンにかかる総荷重に含まれます。
複数の資材を一度に吊る、あるいは重量のある専用治具を使う場合、玉掛け用具の重さが無視できない割合を占めることがあります。荷の重さだけを見て「まだ余裕がある」と判断せず、玉掛け用具を含めた総荷重で定格荷重と比較する習慣が必要です。
合図と目視の限界
運転者は、作業半径や吊り荷の状態をすべて自分の目で正確に把握できるとは限りません。ジブの角度や旋回位置によっては、つり荷までの実際の距離を目視だけで正確に見積もることが難しい場面もあります。
合図者は、運転者が見えにくい位置や距離感を補う役割を担いますが、合図者自身も荷重表を理解していなければ、過負荷につながる作業半径の変化に気づけません。運転者と合図者の双方が、その日の作業でどこまでの半径・荷重を計画しているかを共有しておくことが、目視の限界を補う実務上の対応になります。
無線や手の合図だけに頼っていると、荷の重さや作業半径についての細かい確認は後回しになりがちです。作業を始める前の短い時間で、今日はどの半径まで届かせる予定か、荷の重さは荷重表のどのあたりに位置するかを、運転者と合図者・玉掛け者の間で言葉にして確認しておくことが、目視だけに頼る判断の誤りを減らします。
記録に残すこと
その日にどのクレーンを使い、どの作業半径で、何を吊ったかという記録は、事故が起きたときの原因究明だけでなく、日常的な点検の材料にもなります。過負荷防止装置が作動した記録が残るクレーンであれば、その記録を定期的に確認し、頻発する場面がないかを点検することも有効です。
同じ作業半径で装置の警報が繰り返し鳴っているのであれば、その作業自体が定格荷重の限界に近い計画になっている可能性があります。記録を都度確認するだけでなく、繰り返し警報が鳴る作業を洗い出し、クレーンの選定や作業半径の計画を見直す材料として使うことが、記録を残す意味を実務に生かす方法です。
移動式クレーンの転倒については、移動式クレーンの転倒はなぜ起きるかにまとめている。玉掛けの資格については玉掛けの資格を参照してほしい。
本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士等の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- 定格総荷重は玉掛け用具の重さを含み、定格荷重はそこから用具の重さを差し引いた荷そのものの重さです
- クレーン等安全規則第六十九条は定格荷重をこえる荷重をかけて使用することを禁じ、定格荷重は作業半径によって変わります
- 第七十条の二は、運転者と玉掛けをする者の双方が定格荷重を常時知ることができる措置を義務づけています
- 過負荷防止装置の無効化は、荷重表の読み違いを補う最後の手段を失わせる行為です
- つり上げる荷だけでなく、玉掛け用具の重さも含めた総荷重で定格荷重と比較する必要があります
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よくある質問
Q. 定格荷重に余裕を持たせておけば、過負荷防止装置は切ってもよいですか
過負荷防止装置は、荷重表の読み違いや作業半径の見積り誤りを補うための装置です。余裕を見込んでいるつもりでも見積りが外れる場合があるため、装置を無効化することは避ける必要があります。
Q. 荷の重さが荷重表の範囲内であれば、玉掛け用具の重さは気にしなくてよいですか
荷重表と比較する際は、荷そのものの重さだけでなく、ワイヤロープや吊り具など玉掛け用具の重さも含めた総荷重で確認する必要があります。
Q. 作業半径はどうやって把握すればよいですか
ジブの長さと角度から、その日の作業でつり荷までの距離がどの範囲になるかをあらかじめ見積もっておく必要があります。個別の見積り方法については、クレーンの取扱説明書または所轄の労働基準監督署にご確認ください。