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労災保険のメリット制とは|災害が保険料に効いてくる仕組み

約6分で読めます 安全ドリル+編集部
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共通の現場で起きる有害物の場面(安全ドリル+の教材より)
安全ドリル+の教材より

労災保険のメリット制がどのような事業を対象に、収支率に応じて保険料率を増減させる仕組みか、建設業の一括有期事業を含めて整理します。

「労災を使うと保険料が上がるから、隠したほうがいい」。現場でこうした発言を聞いたことがある担当者は少なくないはずである。この発想の根っこにあるのが、労災保険のメリット制という仕組みへの誤解である。仕組みを正しく理解すれば、この発想がいかに危ういかが見えてくる。

この記事では、メリット制がどのような事業を対象に、何を根拠に保険料率を増減させる仕組みなのかを整理する。具体的な増減率は制度改正のたびに見直されるため、本記事では率そのものではなく、仕組みの骨格を説明することに重点を置く。 仕組みを理解しておけば、増減率の数字だけが変わっても、判断の土台は揺らがない。

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メリット制とは

メリット制とは、労災保険に加入する事業について、その事業で実際に発生した業務災害の状況に応じて、労災保険率又は労災保険料を一定の範囲で増減させる仕組みである。労災保険は労働者災害補償保険法に基づく制度であり(出典:e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法)、保険料の徴収に関する具体的な仕組みは、労働保険の保険料の徴収等に関する法律に定められている(出典:e-Gov法令検索 労働保険の保険料の徴収等に関する法律)。

災害の発生が少ない事業ほど保険料率が下がる方向に、災害の発生が多い事業ほど保険料率が上がる方向に働くのが基本的な発想である。ただし、この増減には適用される事業の規模や業種に条件があり、すべての事業場が対象になるわけではない。

メリット制の目的は、単に保険料を上下させることではない。事業主が安全衛生対策に取り組み、労働災害の防止に努めることへの経済的な動機づけを与えるという狙いが背景にある。保険料という数字を通じて、災害防止の取り組みが結果として跳ね返ってくる仕組みを作ることで、労使双方に予防への関心を持たせる制度設計になっている。

適用される事業の規模

メリット制は、一定規模以上の事業に適用される。具体的には、労働者数や保険料の額など、複数の基準のいずれかを満たす事業が対象になる。小規模な事業場は、そもそもメリット制の適用対象にならない場合がある。

自社がメリット制の適用対象かどうかは、事業の規模・業種によって判断が異なるため、断定的に説明することは避け、労働局や社会保険労務士等の専門家に個別に確認するのが確実である。適用対象になった時点で初めて災害の実績が保険料に反映され始めるため、対象になったかどうかの確認自体を怠ると、いつの間にか保険料が変動していたという事態にもなりかねない。事業を拡大して規模の基準を超えたタイミングなど、状況が変わる節目で確認を怠らないようにしたい。

収支率で増減する仕組み

メリット制の核になっているのは、一定期間における保険料の額と、その期間に支給された保険給付の額との比率、いわゆる収支率である。収支率が低い(保険料に対して給付が少ない)事業は保険料率が引き下げられる方向に、収支率が高い(給付が多い)事業は引き上げられる方向に調整される。

この増減の幅そのものは、制度改正によって見直されることがある。 ここで具体的な数値を示すより、「実際に発生した災害の状況が、一定の期間を通じて事業の保険料に反映される」という仕組みの骨格を理解しておくことのほうが、長く役立つ。

建設業の一括有期事業

建設業は、工事現場ごとに事業が短期間で完了する有期事業が多いという特性を持つ。個々の現場を単独の事業としてメリット制を適用すると、実務上の管理が煩雑になるため、一定の要件を満たす建設の有期事業は、複数の現場をまとめて一つの事業とみなす一括有期事業という扱いを受ける。

この結果、メリット制における収支率も、個々の現場ごとではなく、一括有期事業としてまとめられた単位で計算される。1つの現場で発生した災害が、その現場だけでなく、同じ一括有期事業に含まれる他の現場の保険料にも影響しうる構造になっている。

一方で、大規模な単独の工事など、一括有期事業の要件を満たさない現場は、その工事単独で有期事業としてメリット制の対象になる場合がある。自社が抱える工事が一括有期事業の対象になるか、単独有期事業として扱われるかによって、災害の影響が及ぶ範囲が変わってくる。この区分は労働保険の年度更新の手続きとも関わるため、総務・経理部門と現場側で認識をそろえておく必要がある。

「労災隠し」が割に合わない理由

保険料が上がることを恐れて労災保険の給付申請を控える、いわゆる労災隠しは、複数の意味で割に合わない行為である。現場でこの発想が根強く残っている背景には、メリット制の仕組みを正確に理解していないまま「労災=保険料増」という単純化された認識が広がっていることがある。まず、労働者死傷病報告を偽って提出しない、または虚偽の内容で提出することは、労働安全衛生法上の犯罪行為であり、刑事責任を問われる可能性がある。

さらに、メリット制による保険料の増減は、実際に発生した災害の収支率を反映する仕組みであり、労災を使わずに済ませたとしても、災害そのものが起きた事実は変わらない。むしろ、労災保険を使わずに労働者本人や会社が治療費を負担することになれば、保険料以上の直接的な出費が発生する場合もある。被災した労働者本人が、本来受けられるはずの補償を受けられないまま働き続けることになれば、その負担は最終的に本人に跳ね返ってしまう。

保険料以外の損失

労災を適切に使わず、後になって虚偽が発覚した場合、追徴金や刑事罰の対象になるだけでなく、発注者からの信用を失い、指名停止や監督処分の対象になる可能性もある(詳しくは元請の指名停止はどこで決まるかで整理している)。保険料の増減という目先の損得だけで判断すると、より大きな損失を見落とすことになる。

労働災害を減らすこと自体が、メリット制における保険料の観点でも、それ以外の事業機会の観点でも、企業にとって合理的な選択になる。この構造は、経営に安全対策を通すにはで扱った、安全対策を損失回避として語る視点とも重なる。保険料の増減という分かりやすい数字は、経営層に安全対策の必要性を伝える際の切り口の一つにもなる。ただし、数字だけを根拠にすると、制度改正で率が変われば説得力も揺らいでしまうため、あくまで仕組みの理解とあわせて説明する姿勢が欠かせない。

制度の詳細や個別の適用は、発注者の定める基準および所轄の行政機関にご確認ください。

労働者死傷病報告の電子申請については、労働者死傷病報告の電子申請で整理している。


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よくある質問

Q. メリット制の保険料率は、具体的に何%上下しますか

本記事では具体的な増減率を示していません。制度改正によって見直される部分であるため、最新の数値は労働局又は社会保険労務士等の専門家に確認してください。

Q. 小規模な事業場でも、メリット制は適用されますか

すべての事業場が対象になるわけではありません。労働者数や保険料の額などの基準を満たす事業が対象になります。自社が該当するかどうかは個別に確認が必要です。

Q. 建設業では、現場ごとにメリット制が計算されますか

一定の要件を満たす建設の有期事業は、複数の現場をまとめた一括有期事業として扱われ、収支率もその単位で計算されます。個々の現場単独で計算されるわけではありません。要件を満たさない大規模な単独工事は、単独有期事業として別に扱われる場合があります。

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