「ISO45001を取れば、労災は減るのか」。認証取得を検討する経営層から、こう問われることがある。答えは単純ではない。認証はあくまで仕組みが要求事項どおりに運用されていることを第三者が確認する手続きであり、災害の発生件数そのものを保証するものではない。ISO45001もOSHMS指針も、災害を直接ゼロにする魔法ではなく、安全衛生活動を仕組みとして継続的に回すための枠組みである。
この記事では、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)という考え方の骨格と、国内の指針とISO45001の関係、そして認証を取ると現場の記録がどう変わるかを整理する。
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マネジメントシステムとは
労働安全衛生マネジメントシステムとは、事業者が労働者の協力のもとで一連の過程を定め、継続的に行う自主的な安全衛生活動の仕組みである。厚生労働省の指針では、安全衛生方針の表明、危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)とその結果に基づく措置、安全衛生目標の設定、安全衛生計画の作成・実施・評価・改善という一連の流れが、体系的かつ継続的に実施される仕組みと定義されている(出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」)。
この指針は平成11年労働省告示第53号として定められ、その後も改正が重ねられている。個別の危険源ごとに具体的な措置を定める安衛法本体や関連省令とは性質が異なり、PDCAサイクルを組織として回す「仕組みそのもの」を対象にしている点が特徴である。指針自体が「機械、設備、化学物質等による危険又は健康障害を防止するため事業者が講ずべき具体的な措置を定めるものではない」と明記しているとおり、個別の安全基準を上書きするものではなく、既存の基準を運用に乗せるための土台という位置づけになる(出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステム関連資料・教材一覧」)。危険性又は有害性の調査そのものが安衛法上の努力義務であることは、リスクアセスメントの義務でも整理している。
ISO45001の要求事項の骨格
ISO45001は、国際標準化機構(ISO)が策定した、労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格である。2018年に発行され、それ以前に普及していた民間規格OHSAS18001を置き換える形で国際的に広がった。国内ではJIS Q 45001として、日本産業規格にも取り入れられている。
要求事項の骨格は、方針の策定、リーダーシップと働く人の参加、リスクの特定と評価、目標の設定、実施と運用、パフォーマンス評価、継続的改善というPDCAの流れを組織全体で回す点にあり、国内のOSHMS指針と共通する構造を持つ。
ISO45001の大きな特徴の一つは、「働く人の参加」を明確な要求事項として位置づけている点にある。安全衛生に関する方針や目標を、経営層だけで決めるのではなく、現場で働く人の意見を反映する手順をあらかじめ定め、実際にその手順に沿って運用することが求められる。この考え方は、国内のOSHMS指針における労働者の意見の反映という要素とも重なる。
国内のOSHMS指針との関係
ISO45001と国内のOSHMS指針は、どちらも同じ国際標準化の議論の系譜にある考え方を土台にしており、要求する要素の骨格は近い。ただし、OSHMS指針は厚生労働省の告示であり第三者認証の仕組みを前提としないのに対して、ISO45001は認証機関による第三者審査を経て認証を取得する規格である点が異なる。
建設業では、建設業労働災害防止協会が定めるCOHSMS(コスモス)のように、業界団体が独自にOSHMS指針をベースにした認定制度を運用している例もある。自社がどの枠組みで取り組むかは、発注者からの要求や、業界団体との関係を踏まえて判断する必要がある。
事業場を単位に運用することを基本とするOSHMS指針に対して、建設業に属する事業者は、請負契約を締結している事業場と、その契約に係る仕事を行う事業場をあわせて一つの単位として運用することを基本とする、という違いがある。元請と下請が同じ現場で混在する建設業の実情を踏まえた整理であり、どの単位でPDCAを回すのかを決めるところから検討が始まる。
認証を取ると何が変わるか
ISO45001の認証を取得すると、安全衛生活動が属人的な取り組みから、組織として文書化された仕組みへと移行する。方針の表明、リスクアセスメントの実施記録、目標の設定と達成状況の確認、内部監査の実施記録など、活動の一つひとつを記録として残すことが要求事項に組み込まれる。
発注者によっては、入札の技術評価点で認証取得を加点要素として扱う場合もある。ただし、認証の有無が工事成績評定や経営事項審査に与える影響は発注者・年度によって異なるため、断定的な説明はできない。
記録の量が増える問題
マネジメントシステムを本格的に運用しようとすると、文書化すべき記録の量が一気に増える。方針・目標・計画・実施記録・監査記録・是正処置記録など、扱う書類の種類が多く、現場の担当者が本来の安全管理業務よりも書類作成に時間を取られてしまう本末転倒が起きやすい。
とくに建設業は、現場ごとに作業内容も参加する協力会社も変わるため、事業場を単位に運用する製造業のマネジメントシステムをそのまま持ち込むと、現場の実態に合わない書類が増えるだけになりかねない。
現場の負担をどう抑えるか
記録の負担を抑える現実的な方法は、日々の安全衛生活動そのものを、後から集計・提示できる形で最初から記録として残すことである。朝礼でのKY活動や、新規入場者への安全教育を、実施のたびに紙で作り直すのではなく、記名で自動的に積み上がる仕組みに任せておけば、内部監査や外部審査のたびに証跡を探し集める手間が減る。
マネジメントシステムの本質は、書類の量を増やすことではなく、PDCAを実際に回すことにある。記録の作成そのものに現場の労力を割きすぎると、本来の目的である継続的な改善のための時間が削られてしまう。
システム監査という要求事項も、記録の量が増える一因になりやすい。安全衛生計画に従って行った措置が適切に実施されているかどうかを、事業者自身が定期的に調査・評価する仕組みだが、監査のための書類作りが目的化してしまうと、現場の実態から離れた形式的な監査になりかねない。
制度の詳細や個別の適用は、発注者の定める基準および所轄の行政機関にご確認ください。
経営事項審査における評価項目の考え方は、経営事項審査と労働災害の関係で整理している。
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よくある質問
Q. ISO45001を取得すれば、労働災害は減りますか
認証取得そのものが災害を自動的に減らすわけではありません。方針・目標・リスクアセスメント・記録というPDCAの仕組みを実際に運用し続けることで、間接的に災害防止につながる取り組みです。
Q. OSHMS指針とISO45001は、どちらか一方だけ取り組めばよいですか
どちらも骨格は近いですが、第三者認証の有無や、発注者からの要求内容によって、どちらに重点を置くべきかは変わります。自社の状況に応じて判断してください。
Q. 建設業でマネジメントシステムを導入する際、特に注意すべき点は何ですか
現場ごとに作業内容や協力会社が変わる建設業では、事業場単位のマネジメントシステムをそのまま持ち込むと書類が増えすぎることがあります。日々の記録を自動的に積み上げる仕組みを併用し、現場の負担を抑える工夫が必要です。