「是正勧告で済んだのに、別の現場では書類送検になったと聞いた。何が違うのか」。同じような法令違反でも、対応が分かれる理由が分からないという相談を受けることがある。両者は連続した重さの違いというより、性質そのものが異なる別の手続きである。
この記事では、労働安全衛生法違反が書類送検に至る流れと、法人と個人の双方が処罰対象になる両罰規定という仕組み、そして是正勧告との違いを整理する。個別の企業名や事案には触れず、制度の仕組みとして説明する。 制度を正確に理解しておくことが、いざというときの対応を落ち着いて進める助けになる。
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送検に至る流れ
労働基準監督官は、労働基準法に基づき、事業場に臨検し、帳簿・書類の提出を求め、又は尋問を行う権限を持つ(出典:e-Gov法令検索 労働基準法)。臨検監督の結果、法令違反が確認されると、まず是正勧告書が交付されるのが一般的な流れである。詳しくは是正勧告を受けたら何をするかで整理している。
是正勧告に従わない、虚偽の報告を行う、あるいは違反の内容や結果が重大であると判断された場合、労働基準監督官は司法警察員として捜査を行い、検察庁へ書類を送致する。これが一般に「書類送検」と呼ばれる手続きである。労働安全衛生法には罰則の章が設けられており、違反行為の内容に応じて懲役又は罰金が定められている(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法)。
書類送検は、あくまで検察官へ捜査結果を引き継ぐ手続きであり、その時点で有罪が確定するわけではない。送検後、検察官が起訴するかどうかを判断し、起訴された場合に裁判所での審理を経て、初めて刑罰の有無が確定する。「送検された」という事実と、「有罪になった」という事実は、報道の見出しでは同じように扱われがちだが、法的には段階が異なる。
よく問われる条文の型
送検の対象になりやすい違反には、いくつかの型がある。墜落防止措置を講じずに高所作業を行わせた場合の措置義務違反、特別教育や技能講習を受けさせないまま危険な作業に従事させた教育義務違反、作業主任者を選任すべき作業で選任していなかった場合など、労働災害の発生と直結しやすい義務の違反が代表的である。
これらの違反は、実際に死亡災害や重篤な負傷が発生した際に、原因調査の過程で明らかになることが多い。違反があったこと自体と、その違反が災害の原因になったと認められることは別の話であり、両方が揃って初めて刑事責任の追及に進むケースが多い。
災害が発生していない段階でも、臨検監督で危険な状態が確認され、是正の指導に従わない場合は、より重い対応に進む可能性がある。「まだ災害が起きていないから大丈夫」という考え方は、義務を果たしているかどうかとは別の問題であり、送検の可能性を排除する理由にはならない。日頃から法令上の義務を淡々と果たしておくことが、結果として最も確実な備えになる。
両罰規定という仕組み
労働安全衛生法には両罰規定が設けられており、法人の代表者や、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても罰金刑を科すとされている(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法)。
この規定により、現場で違反行為を行った個人(現場代理人や安全衛生責任者など)だけでなく、その個人を雇用する法人自体も、同時に罰金刑の対象になりうる。
法人と個人の両方が問われる
両罰規定があるため、送検は「会社が送検された」で終わらず、「会社と、実際に違反行為を行った個人の両方が送検された」という形になることが多い。現場の責任者個人が、法人とは別に刑事責任を問われる可能性があるという点は、現場管理者自身が理解しておくべき部分である。
安全配慮義務という民事上の責任と、労働安全衛生法違反という刑事上の責任は別の枠組みであり、両方が同時に問題になる場合もある(詳しくは安全配慮義務とは何かで整理している)。
是正勧告との違い
是正勧告は行政指導であり、その場で罰則が科されるものではない。書類送検は、刑事事件として検察庁の判断(起訴・不起訴)に委ねられる手続きであり、性質がまったく異なる。是正勧告で改善が確認できれば、それ以上の対応に進まないことが大半だが、違反の重大性や、是正への対応状況によっては、是正勧告を経ずに送検に至る場合もある。
「是正勧告で済んだ現場」と「送検になった現場」の違いを、対応の丁寧さだけで説明するのは正確ではない。違反の内容、災害の結果の重大性、監督署が把握した経緯など、複数の要素が絡んで判断される。同じ会社の別の現場であっても、監督署が異なれば運用の温度感が変わることもあり、一律に「うちは大丈夫」と考えるのは危うい。
公表される情報
厚生労働省及び各労働局は、労働基準関係法令違反に関する情報を、一定の基準に沿って公表する取り組みを行っている。ただし、公表の対象・時期・様式は運用によって変わり、すべての送検事案が同じ形で公表されるわけではない。本記事では、個別の公表事案・企業名を扱わない。 自社に関わる情報を確認したい場合は、所轄の労働基準監督署、または厚生労働省の公表資料を直接確認する必要がある(出典:厚生労働省「労働基準行政の概要」)。
予防としてやること
送検に至る違反の多くは、日頃からの記録があれば防げたはずのものではなく、実際に義務を果たしていたかどうかが問われる。特別教育・技能講習の実施記録、作業主任者の選任記録、日々の安全教育の実施記録が、記名で整理されていれば、監督署からの確認に対して事実を示せる。
記録がないこと自体が違反の証拠になるわけではないが、記録がなければ「実施していた」という事実を説明する手段を失う。日々の教育実施を記名で残す仕組みを整えておくことは、送検に至るような重大な結果を避けるための土台の一つになる。
複数の現場を掛け持ちする所長ほど、記録の整理は後回しになりやすい。ある現場で受けた指摘や、監督署とのやり取りの経緯を、別の現場に共有できていないと、同じ理由で別の現場が同種の指摘を受けることになりかねない。記録を現場ごとにばらばらに管理するのではなく、本社側が横断的に把握できる状態にしておくことが、繰り返しを防ぐ手がかりになる。
制度の詳細や個別の適用は、発注者の定める基準および所轄の行政機関にご確認ください。
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よくある質問
Q. 是正勧告を受けたら、必ず書類送検に発展しますか
いいえ。是正勧告は行政指導であり、多くの場合、是正の確認をもって対応が終わります。是正勧告に従わない、虚偽の報告をする、あるいは違反や結果が重大な場合に、送検へ進む可能性があります。
Q. 会社が送検されると、現場の担当者個人は処罰されませんか
両罰規定により、実際に違反行為を行った個人と、その法人の両方が処罰対象になりえます。会社だけが責任を負う仕組みではありません。
Q. 送検された事案は、どこで確認できますか
厚生労働省及び各労働局が一定の基準に沿って公表する取り組みを行っていますが、公表の範囲・時期は運用により異なります。個別の情報は所轄の労働基準監督署に確認してください。