「あの人、最近様子が違う」——現場でそう感じても、どう声をかければよいか分からず、結局何もしないまま時間が過ぎることは少なくない。メンタル不調は、本人が自分から言い出しにくい性質を持つため、周囲が気づいたときにどう動くかが重要になる。
この記事では、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にそって、現場で気づける変化、声かけで避けるべきこと、相談先の用意、復職時に決めておくことを整理する。あわせて、健康情報という記録の扱いに、なぜ慎重さが必要なのかも扱う。
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現場で気づける変化
現場で気づける変化とは、普段の様子と比べて生じる小さな違いを指す。あいさつの声が小さくなった、口数が減った、細かいミスが増えた、遅刻や欠勤が増えた、身だしなみに気を配らなくなったといった変化が、しばしば挙げられる。
これらの変化は、メンタル不調以外の原因でも起こりうる。体調不良や私生活の事情が背景にある場合もあり、変化に気づいたからといって「メンタル不調だ」と決めつけることは避ける必要がある。大切なのは診断することではなく、変化に気づき、声をかけるきっかけにすることである。
4つのケアという枠組み
4つのケアという枠組みとは、厚生労働省の指針が示す、メンタルヘルスケアの4つの実施主体を整理した考え方である。労働者自身が行う「セルフケア」、管理監督者が日常的に行う「ラインによるケア」、産業医など事業場内の産業保健スタッフによる「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、外部の専門機関による「事業場外資源によるケア」の4つが、継続的かつ計画的に行われることが重要とされている(出典:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」)。
現場の職長や班長が担うのは、主にこの「ラインによるケア」にあたる。日常的に労働者と接する立場だからこそ気づける変化があり、専門的な診断や治療は担わない代わりに、気づいたことを相談窓口や産業保健スタッフにつなぐ役割が期待されている。この指針は、安衛法第70条の2第1項の規定にもとづき、事業者が講ずる労働者の健康の保持増進のための措置を適切かつ有効に実施するための指針として策定されている(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法)。
声をかけるときに避けること
声をかけるときに避けることとは、原因の詮索や、安易な励まし、本人の意思を無視した対応の押し付けを指す。「なんで元気がないんだ」と原因を問い詰めることや、「気の持ちようだ」と本人の受け止め方を否定することは、かえって本人を追い詰めかねない。
有効とされるのは、変化に気づいたことを具体的に伝え、「話を聞く準備がある」という姿勢を示すことである。無理に話させようとせず、本人が話したいタイミングを待つ余地を残すことも重要である。声をかけた結果、本人が拒否的な反応を示しても、それ自体を責めるべきではない。
相談先をどう用意するか
相談先をどう用意するかとは、社内外に、労働者が安心して相談できる窓口をあらかじめ整えておくことを指す。社内の産業保健スタッフだけでなく、外部の相談機関(事業場外資源)を用意しておくと、社内の人間関係を気にせず相談したい労働者の受け皿になる。
相談先は、周知されていなければ機能しない。窓口を作っただけで終わらせず、朝礼や掲示物などを通じて、繰り返し伝えておく必要がある。相談先の連絡方法を、職種や雇用形態にかかわらず、現場に関わるすべての人が知っている状態を目指すことが望ましい。
復職のときに決めること
復職のときに決めることとは、メンタル不調により休業した労働者が、円滑に職場に戻り、就業を継続できるようにするための手順を指す。指針は、衛生委員会等で調査審議し、産業医等の助言を受けながら、休業の開始から通常業務への復帰までの流れをあらかじめ職場復帰支援プログラムとして定めておくことを求めている(前掲・厚生労働省指針)。
復職の可否は、本人の希望だけでなく、主治医・産業医の意見を踏まえて総合的に判断する必要がある。復職後も、当初は業務内容や労働時間を段階的に戻す配慮が必要になる場合がある。復職の判断を焦って通常勤務にいきなり戻すと、再び不調をきたすリスクがある。
元請と協力会社の間の扱い
元請と協力会社の間の扱いとは、複数の会社の作業員が混在する建設現場で、メンタル不調への対応をどの会社が担うかという実務上の論点である。メンタルヘルスケアの実施主体は、基本的にその労働者を雇用する会社である。元請が協力会社の作業員の健康情報に直接関与することは、通常想定されていない。
ただし、現場での安全に直結する場面、たとえば体調不良のまま高所作業に入ろうとしているといった状況では、元請の現場管理者が気づき、声をかけることは妨げられない。この場合も、病名や詳細な事情を聞き出すことが目的ではなく、その日の作業から外すという安全上の判断にとどめることが適切である。
記録の慎重さ
記録の慎重さとは、メンタルヘルスに関する情報が、健康情報を含む要配慮個人情報にあたることを踏まえた取扱いを指す。指針は、労働者の個人情報の保護への配慮が、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加するための前提であるとしている(前掲・厚生労働省指針)。
情報を取得する際は、目的をあらかじめ明らかにして本人の同意を得ること、第三者への提供は原則として本人の同意を要すること、事業場内でも情報の取扱いを限られた担当者に絞ることが求められる。現場の申し送りや記録簿に、体調に関する詳しい事情まで書き残すことは、本来の目的を超えた記録になりかねない。記録に残すべきは「その日どう対応したか」であって、「何の病気か」ではない。個別の事案の判断は、産業医または所轄の労働基準監督署にご確認ください。
まとめ
- 現場で気づける変化は、あいさつや口数、ミスの増加など普段との違いであり、決めつけずに声かけのきっかけとする
- メンタルヘルスケアは「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つで継続的に行う
- 声かけでは原因の詮索や安易な励ましを避け、話を聞く姿勢を示すことが有効とされる
- 相談先は用意するだけでなく、繰り返し周知して初めて機能する
- 復職は職場復帰支援プログラムにそって、産業医等の助言を踏まえ段階的に進める
- メンタルヘルスに関する情報は要配慮個人情報にあたり、取得・共有は必要最小限にとどめる
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よくある質問
Q. メンタル不調に気づいたら、すぐに専門機関に相談させるべきですか
まずは変化に気づいたことを伝え、話を聞く姿勢を示すことが基本です。専門的な対応が必要かどうかは、産業保健スタッフや専門機関と相談しながら判断します。
Q. 職長は診断のようなことをしてよいですか
職長など管理監督者が担うのは「ラインによるケア」であり、診断や治療は担いません。気づいたことを相談窓口や産業保健スタッフにつなぐ役割が期待されています。
Q. 協力会社の作業員のメンタル不調に、元請はどこまで関われますか
メンタルヘルスケアの実施主体は雇用している会社です。ただし安全に直結する場面での声かけや、その日の作業から外す判断は妨げられません。
Q. 復職後、以前と同じ業務にすぐ戻してよいですか
段階的に業務内容や労働時間を戻す配慮が必要になる場合があります。産業医等の助言を踏まえた職場復帰支援プログラムにそって進めることが望まれます。
Q. メンタル不調に関する情報は、現場の申し送りに書いてよいですか
要配慮個人情報にあたるため、必要最小限の範囲にとどめる必要があります。詳しい病状ではなく、その日どう対応したかを記録することが適切です。