高血圧や糖尿病の薬を飲みながら現場に立つ職人は珍しくない。持病があるからといって、その人を一律に現場から外してよいわけではない。一方で、何の配慮もせず今まで通りに働かせてよいわけでもない。
この記事は「この病気の人は現場に入れてはいけない」という線引きを示すものではない。持病を抱える作業員について、事業者がどう向き合い、何を産業医に相談し、どこまでを本人・家族・元請と共有すべきかという、判断のための枠組みを整理する。
現場側の配慮は、その日の作業内容を本人と管理者が共有できていて初めて機能する。安全ドリル+は、当日の注意点を短い動画で毎朝繰り返し届ける仕組みとして使える。
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持病を持つ人が現場に多い理由
持病を持つ人が現場に多い理由として、建設業に高年齢の就業者が多いことが挙げられる。加齢に伴い、高血圧・糖尿病・心疾患などの生活習慣病を抱える人の割合は自然に増える。これは建設業に限った現象ではなく、他産業でも同様の傾向がある。
持病があること自体は、その人の能力や技能とは別の事柄である。長年現場を支えてきた熟練の職人が高血圧の薬を服用しているケースは珍しくなく、持病の有無だけで現場への適性を判断することはできない。
高所作業と持病の組み合わせ
高所作業と持病の組み合わせについて、厚生労働省が公表する「職場における熱中症防止のためのガイドライン」は、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾病として、糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患などを挙げている。血糖値が高い場合は尿への糖の漏出により脱水状態を生じやすくなること、高血圧症や心疾患で利尿作用のある薬を服用している場合は脱水状態を生じやすくなることなどが理由とされている(出典:厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」)。
このガイドラインは熱中症に限った内容だが、示している考え方は他の作業にも応用できる。持病そのものが危険なのではなく、特定の作業環境や条件と組み合わさったときに、リスクが高まる場合があるという構造である。高所作業でめまいや意識消失が起きれば重大な墜落につながりうるが、それは「高血圧の人は高所作業ができない」という単純な結論を意味しない。服薬の状況や当日の体調によって、リスクの大きさは変わる。
服薬と作業の関係
服薬と作業の関係については、薬の種類によって注意すべき点が異なる。血圧を下げる薬、血糖値をコントロールする薬、精神・神経系に作用する薬など、服薬の内容によって、めまい、低血糖、眠気といった症状が作業中に出る可能性がある。
これらの情報を事業者が薬の名称まで把握する必要はなく、また望ましくもない。必要なのは、本人が主治医から作業上の注意事項を受けている場合に、それを産業医に伝え、産業医の視点で現場での対応を検討してもらう仕組みである。
産業医の意見をどう使うか
産業医の意見をどう使うかは、持病を抱える作業員への対応の中心になる。健康診断で異常所見が出た場合の医師の意見聴取義務(安衛法第66条の4)は、持病がある場合の就業上の配慮を検討する場面でも土台になる(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法)。
産業医は、本人の病状そのものを診断する立場ではなく、主治医の見解を踏まえて、その人が置かれている作業環境でどのような配慮が必要かを助言する立場にある。事業者が独自の判断で「この人はこの作業をさせない」と決めるのではなく、産業医の意見を挟むことで、医学的な根拠に基づいた判断に近づけることができる。
異常所見の有所見者への事後措置の枠組み全体については、有所見者が半数を超える現場|就業判定と配置の考え方で扱っている。
本人・家族・元請への伝え方
本人・家族・元請への伝え方は、持病への対応の中でも特に慎重さが求められる部分である。健康情報は要配慮個人情報にあたり、本人の同意なく元請や他の作業員に伝えることはできない。
本人にとって、持病を職場に伝えることは「働けなくなるかもしれない」という不安と直結しやすい。だからこそ、伝える目的が「排除するため」ではなく「安全に働き続けるため」であることを、事業者側が明確に示す必要がある。家族に相談する場面が生じる場合も、本人の同意を前提にすることが基本である。
元請への共有が必要になる場面もあるが、その場合も病名そのものではなく、「当日の配置で配慮が必要な事項」といった形に絞って伝える運用が現実的である。
配慮の限界を決めておく
配慮の限界を決めておくこととは、事業者が講じられる配慮には限りがあることを、あらかじめ関係者間で共有しておくことを指す。産業医の意見が「この作業は避けるべき」というものであれば、本人の意向だけでその意見を覆すことはできない。
一方で、配慮の限界を理由に、必要な検討もせず一律に配置転換や解雇に踏み切ることも適切ではない。安全配慮義務と、本人が働き続けたいという意向の両方を踏まえ、産業医を交えた話し合いのなかで着地点を探ることが求められる。個別の事案の判断は、産業医または所轄の労働基準監督署にご確認ください。
記録
記録については、産業医の意見の内容、それを踏まえて講じた配慮の内容、本人への説明の経過を残しておく必要がある。これは前述の就業区分の記録と同様、健康情報として厳重に管理し、閲覧できる担当者を限定する。
記録を残す目的は、本人を管理・監視するためではなく、配慮が実際に機能しているかを事後に確認し、必要に応じて見直すためである。この目的を関係者が共有していないと、記録そのものが本人にとって不安の種になりかねない。
まとめ
- 持病があること自体は、その人の現場への適性を判断する材料にはならない
- 高所作業などとの組み合わせでリスクが高まる場合があるが、一律の禁止ではなく個別の状況に応じた判断が必要である
- 服薬の内容そのものより、主治医・産業医からの注意事項を現場の対応に反映させる仕組みが重要である
- 産業医の意見を挟むことで、医学的根拠に基づいた判断に近づけられる
- 本人・家族・元請への共有は、本人の同意を前提とし、必要な範囲に絞る
- 配慮には限界があることを共有しつつ、一律の排除に踏み切らず産業医を交えて着地点を探る
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日々の記録を積み上げる基本的な考え方は毎日のKY活動を記録に変えるを、高年齢労働者への配慮は高齢作業者の災害はなぜ重くなるかを参照してほしい。
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よくある質問
Q. 高血圧や糖尿病があると高所作業はできませんか
病名だけで一律に判断することはできません。服薬の状況や当日の体調、産業医の意見を踏まえて個別に判断する必要があります。
Q. 本人が持病を職場に伝えたがらない場合、どうすればよいですか
健康情報の開示を強制することはできません。伝える目的が排除のためではなく安全のためであることを丁寧に説明し、本人の理解を得ることが前提になります。
Q. 元請に病名まで伝える必要がありますか
病名そのものを伝える必要は通常ありません。当日の配置で配慮が必要な事項など、必要な範囲に絞って共有する運用が現実的です。
Q. 産業医がいない小規模な事業場ではどうすればよいですか
地域産業保健センターなど外部の産業保健資源を活用できます。判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署にご相談ください。
Q. 本人の意向と産業医の意見が食い違う場合、どちらを優先しますか
どちらか一方を機械的に優先するのではなく、双方が話し合いのなかで納得できる着地点を探ることが望まれます。個別の判断は産業医にご確認ください。