「健診の受診票は配ったはずだが、誰が受けて誰がまだなのか分からない」——工事が動いている現場ほど、この状態に陥りやすい。健康診断は法定の義務であると同時に、受けさせる段取りを誰かが管理しないと形骸化する記録でもある。
労働安全衛生法(以下、安衛法)は、事業者に一般健康診断の実施を義務づけている。雇入時と定期、対象になる人の範囲、記録の保存期間、結果を受けたあとの対応まで、条文にそって整理する。
健診の受診勧奨や結果の通知を朝礼で毎回言うだけでは、現場を離れる下請作業員には届きにくい。安全ドリル+は、QRを読むだけで届く短い動画で、受診期限のような「言ったつもり」になりがちな連絡を毎日繰り返せます。
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この映像の どこが 危ない?
通路の資材とコードによる転倒
通路は 物を 置く 場所ではない。使ったら その日の うちに かたづける。ほかの 2つも 現場では 危ないが、この 映像に 写っているのは 床の ほうだ。
一般健康診断とは
一般健康診断とは、業務内容にかかわらず、事業者がすべての対象労働者に対して実施する健康診断をいう。特定の有害業務に従事する人だけを対象にした特殊健康診断とは別の枠組みである。
安衛法第66条第1項は、事業者に対し、労働者に医師による健康診断を受けさせる義務を定めている(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法)。この義務を具体化しているのが労働安全衛生規則(以下、安衛則)で、実施の種類・項目・頻度が条文ごとに定められている。
一般健康診断には、雇入時の健康診断、1年以内ごとに1回の定期健康診断のほか、深夜業などの特定業務に従事する人向けの6か月ごとの健康診断(安衛則第45条)などがある。本稿では、現場で最も対象者が多い雇入時健診と定期健診に絞って扱う。
雇入時健診と定期健診の違い
雇入時健診と定期健診の違いとは、実施のタイミングと目的の違いである。雇入時健診(安衛則第43条)は、労働者を雇い入れる際にその時点の健康状態を把握するために行う。定期健診(安衛則第44条)は、雇用後の状態を継続的に把握するために、1年以内ごとに1回、定期的に行う(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。
項目はおおむね共通しており、既往歴および業務歴の調査、自覚症状および他覚症状の有無の検査、身長・体重・視力・聴力の検査、血圧の測定、血糖検査、尿検査などが含まれる。ただし雇入時健診は、医師が必要でないと認めるときの項目省略が定期健診ほど広く認められていない点が異なる。
現場での実務上の注意点は、入場前に別の事業場で受けた健診結果を提出できる場合、同じ項目については重複実施を省略できることである。協力会社の作業員が入場するたびに全項目を受け直させる必要はない。ただし、提出された結果が省略可能な項目を満たしているかどうかは、事業者側で確認する必要がある。
対象になる人
対象になる人とは、常時使用する労働者である。雇用形態の名称ではなく、実際の労働時間・雇用期間で判断する。
行政通達に基づく実務上の目安として、1年以上(一定の有期契約は6か月以上)雇用される見込みがあり、かつ1週間の労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるパート・アルバイトは、正社員と同様に一般健康診断の対象になるとされている。4分の3に満たない場合でも、おおむね2分の1以上であれば実施が望ましいとされる。
建設現場に特有の論点として、一人親方や個人事業主として稼働する作業員は、労働者に該当しないため、発注者側に健診実施義務は生じない。ただし、常用的な雇用関係に近い実態がある場合は、契約形式だけで判断せず、労働者性の有無を確認する必要がある。この判断が難しいケースは、所轄の労働基準監督署に確認するのが確実である。
記録の保存期間
記録の保存期間とは、健康診断個人票を作成した日から起算して、原則5年間である(出典:前掲・安衛則第51条)。
保存の起点は「実施日」ではなく「健康診断個人票を作成した日」である点に注意が必要である。また、特殊健康診断のうち石綿や電離放射線など一部の有害業務については、5年より長い保存期間や、離職後の保存が求められる場合がある。これらは一般健康診断とは別の規定であり、混同しないよう注意したい。
記録は紙の個人票だけでなく、電磁的記録による保存も認められている。ただし、必要なときに必要な人がすぐに参照できる形になっているかどうかは別問題である。協力会社が多数入れ替わる現場では、誰の記録をどこで保管しているかが分散しやすく、監督署の調査時にすぐ提示できない事態が起こりうる。
結果の通知と意見聴取
結果の通知と意見聴取とは、健診結果を本人に伝える義務(安衛法第66条の6)と、異常の所見がある場合に医師の意見を聴く義務(同法第66条の4)を指す。
事業者は、健康診断を受けた労働者に対し、遅滞なくその結果を通知しなければならない。これは本人が自身の健康状態を把握するための義務であり、通知を怠ることは許されない。
異常の所見があると診断された労働者については、その健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴くことが義務づけられている(前掲・安衛法第66条の4)。意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講じることも義務とされている(同法第66条の5)。この意見聴取と事後措置の流れは、次に扱う有所見者への対応の土台になる。
現場を止めずに受診させる段取り
現場を止めずに受診させる段取りとは、工程を大きく崩さずに、対象者全員を漏れなく受診に導く運用を指す。
実務上よく使われる工夫としては、健診機関の巡回サービスを利用して現場や事業所に来てもらう方法、休日や早朝など稼働時間外の枠を確保する方法、協力会社ごとに受診期限を割り振って一括で管理する方法などがある。いずれの方法でも、受診の有無を誰がいつ確認するかを決めておかないと、期限が近づいてから慌てることになる。
未受診者への督促は、口頭での声かけだけでは記録に残らない。受診期限や受診票の提出先を、朝礼や日々の連絡の中で繰り返し伝え、いつ・誰に伝えたかを記録しておくと、督促を尽くした証跡になる。
個別の事案の判断は、産業医または所轄の労働基準監督署にご確認ください。
健診で異常所見が出た人にどう向き合うかは有所見者が半数を超える現場|就業判定と配置転換をどう考えるかで扱っている。健診の実施主体である産業医の選任や職務については産業医は50人から選任|専属が必要な規模と職務を整理するを参照してほしい。日々の記録を積み上げる基本的な考え方は毎日のKY活動を記録に変えるを参照してほしい。
まとめ
- 一般健康診断は雇入時健診(安衛則第43条)と定期健診(同第44条)が中心で、1年以内ごとに1回の実施が義務づけられている
- 対象は雇用形態の名称ではなく、労働時間・雇用期間の実態で判断する
- 記録は健康診断個人票を作成した日から原則5年間保存する
- 異常所見がある場合は医師の意見を聴き、必要な措置を講じることが義務づけられている(安衛法第66条の4・第66条の5)
- 現場を止めずに受診させるには、受診期限の管理と督促の記録が実務上の要になる
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よくある質問
Q. 雇入時健診と定期健診の両方を毎回受けさせる必要がありますか
雇入れの直前直後に健診を受けていた場合など、一定の条件を満たせば重複を避けられる場合があります。判断に迷う場合は、健診機関または所轄の労働基準監督署にご確認ください。
Q. 一人親方は健康診断の対象になりますか
労働者に該当しない一人親方には、発注者側に健診実施義務は生じません。ただし、実態として常用的な雇用関係に近い場合は労働者性の判断が必要になるため、個別に確認することが望まれます。
Q. 健診結果は誰が見てよいのですか
本人への通知は義務ですが、結果そのものは要配慮個人情報にあたります。事業者内でも、必要な範囲の担当者に限って共有する運用が求められます。
Q. 記録の保存期間はすべて5年ですか
一般健康診断は原則5年です。ただし石綿や電離放射線などの特殊健康診断には、より長い保存期間や離職後の保存が定められている場合があります。
Q. 健診を受けさせなかった場合、罰則はありますか
安衛法は健康診断の実施を罰則付きの義務として定めています。個別の違反の有無や程度についての判断は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。