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モルタル・セメントによる皮膚障害|アルカリ熱傷を防ぐ装備

約8分で読めます 安全ドリル+編集部
セメント 皮膚炎アルカリ熱傷生コン保護具建設業
共通の現場で起きる飛来の場面(安全ドリル+の教材より)
安全ドリル+の教材より

セメント・生コンの強アルカリが皮膚に与える影響と、手袋の口や長靴の中に入り込む経路、装備の選び方、皮膚障害が出たときの対応を整理します。

生コンやモルタルを素手で扱っても、その場では熱くも痛くもない。だからこそ、翌日以降に赤みや水ぶくれが出て初めて気づく職人が少なくない。左官やコンクリート打設に携わる職人ほど、この症状を「よくあること」として見過ごしがちである。

長年その作業を続けているベテランほど、過去に何度も同じ症状を経験しており、「毎回のことだから」と受診せずに市販薬で済ませる傾向がある。慢性的に軽い炎症を繰り返していると、皮膚のバリア機能そのものが弱まり、次第に症状が出やすい体質へと変わっていくことも指摘されている。慣れてしまうことが、かえって対策を遠ざける要因になり得る。

化学物質の管理は別記事でSDSの読み方まで含めて扱った。本稿はセメント・モルタルによる皮膚障害に絞り、なぜ気づきにくいのか、どう装備すれば防げるのかを整理する。手袋をしていても発症するのはなぜか、という点まで踏み込んで扱う。

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セメントのアルカリが皮膚に与える影響

セメントは水と混ざると水酸化カルシウムを生じ、強いアルカリ性を示す。これに加えて感作性の強いクロムが微量含まれているため、セメントを扱う作業では接触皮膚炎とセメント熱傷(化学熱傷)の両方が報告されている(出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」皮膚等障害化学物質の解説)。

酸による熱傷が痛みとともに表面から進むのに対し、アルカリによる熱傷は組織を分解しながらじわじわと深部へ進む性質がある。同じ濃度・同じ時間の接触でも、酸より重症化しやすいとされる理由はここにある。

左官やコテ仕上げの作業では、手先の感覚を頼りに材料の硬さやなじみ具合を確認するため、手袋を外して素手で触れる場面が現場の慣習として残っていることがある。手袋をすると仕上げの精度が落ちるという理由で、あえて素手を選ぶ職人も一定数いる。この慣習と、アルカリ熱傷の危険性は本来相容れない。

痛みが出るころには深く進んでいる

セメント作業でやっかいなのは、接触した直後は痛みもかゆみもほとんど感じない点である。作業を続けているうちに皮膚のpHが崩れ、数時間後になって初めて赤みやひび割れ、ひどい場合は潰瘍として症状が現れる。

この時間差が、対応の遅れに直結する。「なんともないから大丈夫」と作業を続けた結果、気づいたときには患部が深く進んでいた、という経過をたどるケースが典型的である。膝立ちでの作業やコテ仕上げのように、長時間同じ部位が生コンやモルタルに触れ続ける作業ほどリスクが高い。

さらにやっかいなのは、症状の出方に個人差がある点である。同じ作業条件でも、皮膚が丈夫な職人はほとんど症状が出ず、そうでない職人だけが炎症を起こす。周囲が平気そうにしているのを見て、症状が出た本人が「自分の体質のせい」と考え、装備の問題として扱わないまま我慢してしまうことがある。

手袋の口・長靴の中に入る経路

装備をしていても皮膚障害が起きるのは、生コンやモルタルが装備の隙間から侵入するためである。典型的な経路は次の3つに集約される。

いずれも「装備はしていたのに中まで入った」パターンであり、装備の有無ではなく、装備の閉じ方・重ね方の問題である。手袋は袖の上から覆う、長靴は裾を外に出さず中に入れる、といった着装の順序を教育で扱わないと、装備そのものは意味をなさない。

膝当てを使わずに直接膝立ちで作業する職人も多い。ズボンの生地は水分を含んだ生コン・モルタルを一定時間はじくが、長時間の接触には耐えられず、やがて染み込む。不浸透性の膝当てを併用するだけで、この経路はかなり防げる。

洗える水を作業の場に置く

アルカリによる皮膚障害への初期対応は、流水で速やかに洗い流すことに尽きる。侵入に気づいてからの時間が短いほど、症状の進行を抑えられる。

問題は、生コン・モルタルを扱う作業場所の近くに、すぐ使える水がないことが多い点である。手洗い場が離れた場所にしかないと、「あとで洗おう」という判断が症状を悪化させる。ポリタンクの水や簡易の洗浄設備を、作業する場所のすぐそばに置いておく段取りが、装備と同じくらい重要になる。

洗い流す際は、水以外のものでアルカリを中和しようとしないことも教育で扱いたい点である。酢など酸性の液体で中和しようとする対応は、かえって皮膚に別の刺激を与える可能性があり、勧められない。流水で十分な時間をかけて洗い流すことが、最も確実な初期対応になる。

現場によっては、飲料用の水しか用意していないところもある。洗浄用の水は飲料水と兼用でよいが、量が限られていると「もったいない」という心理が働き、洗い流す時間を短く切り上げてしまいがちである。洗浄用の水を別途確保しておくと、この心理的なブレーキを外しやすくなる。

装備の選び方

労働安全衛生規則第594条は、皮膚や眼に障害を与える物を取り扱う業務について、事業者が塗布剤・不浸透性の保護衣・保護手袋・履物・保護眼鏡等の適切な保護具を備えることを求めている(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。加えて2024年4月からは、対象を明示した化学物質を扱う業務について保護具の使用そのものを義務づける第594条の2が施行されており、皮膚障害を防ぐ保護具の位置づけは近年強化されている。

生コン・モルタル作業に必要なのは、不浸透性の生地でできた手袋・長靴・エプロンである。綿の手袋は水分を吸って逆にアルカリを皮膚へ密着させてしまうため、この作業には向かない。保護クリームを併用する現場もあるが、クリームは装備の代わりにはならず、あくまで補助的な位置づけで扱うべきである。装備の耐久性が落ちれば防護性能も落ちるため、破れや摩耗を見つけたら早めに交換する運用も合わせて決めておきたい。

コテ仕上げのように細かい手先の感覚が必要な作業では、厚手の手袋だと作業性が落ちるという声も現場からよく聞く。この場合も「素手に戻す」のではなく、薄手でも不浸透性を確保した手袋を選ぶことで、作業性と防護の両立を図る方向で検討したい。装備選びを職人任せにすると、作業性を優先して防護性の低い手袋が選ばれがちになるため、現場としてどの装備を使うかをあらかじめ決めておく意味は大きい。

皮膚障害が出たときの対応

赤み・かゆみ・ひび割れといった症状に気づいたら、まず流水で十分に洗い流し、その日の作業を中断して患部を確認する。症状が軽くても、翌日以降に悪化することがあるため、自己判断で様子を見続けるのは避けたい。作業を中断するかどうかを本人の判断だけに委ねず、周囲が声をかけて確認する体制も有効である。

皮膚科での受診歴や症状の経過を記録に残しておくと、同じ作業を続ける他の職人への注意喚起にもつながる。「誰が・いつ・どの作業で」皮膚障害を訴えたかという情報は、装備の見直しが必要な作業を特定する材料になる。

教育としてどう扱うか

セメント・モルタルによる皮膚障害は、墜落や転落のように一目で危険と分かる作業と違い、じわじわ進む性質のぶん、日々の教育で繰り返し扱わないと意識から抜け落ちやすい。「今日も素手で触ったが何ともなかった」という経験が積み重なるほど、装備を省略する判断が正当化されてしまう。

短時間の映像教材で扱うなら、正しい装備の着装順序と、症状が出るまでの時間差そのものを見せる構成が効果的である。痛みが出た時点ではすでに進行しているという事実を先に共有しておけば、「今は平気だから大丈夫」という判断を崩しやすくなる。

新規入場者への教育で扱う際は、経験の浅い作業員ほど「ベテランが素手でやっているから自分も大丈夫」と誤解しやすい点にも注意したい。ベテランの作業のやり方をそのまま真似ることが、必ずしも安全な手本にはならない場面がある、という前提を新規入場者教育の段階で伝えておく必要がある。

夏場は発汗によって手袋の中が蒸れ、装備を外したくなる誘惑が強くなる時期でもある。気温や作業環境によって装備を怠りたくなる場面は変わるため、季節ごとに注意点を教育で扱う運用が有効である。顔や首筋への飛沫も見落とされやすく、拭き取らずに汗と一緒に乾かせてしまうと、皮膚への接触時間が結果的に長くなる。

化学物質のSDSやリスクアセスメントを現場で扱う具体的な進め方は、AnzenAIのような安全書類作成の仕組みと合わせて検討するとよい。日々のKY活動に皮膚障害の注意点を組み込む考え方は、毎日のKY活動を記録に変えるを参照してほしい。

本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士等の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。


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よくある質問

Q. 保護クリームを塗っていれば手袋は不要ですか。

保護クリームは補助的な位置づけであり、手袋の代わりにはなりません。労働安全衛生規則第594条が求める不浸透性の保護具を基本としたうえで、必要に応じて併用する扱いが妥当です。

Q. 症状が軽い場合でも作業を止めるべきですか。

止めるべきです。アルカリによる皮膚障害は接触直後に痛みが出にくく、数時間後に症状が進むことがあります。軽い赤みでも患部を洗い流し、経過を確認する時間を取ってください。

Q. 綿の軍手で代用してはいけませんか。

綿は水分を吸ってアルカリを皮膚に密着させるため、生コン・モルタルを扱う作業には向きません。不浸透性の生地でできた手袋を使う必要があります。

Q. 皮膚障害の記録は何のために残しますか。

同じ作業を続ける他の職人への注意喚起と、装備の見直しが必要な作業を特定するためです。誰が・いつ・どの作業で症状を訴えたかという情報が、対策の材料になります。

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