安全ドリル+ 現場の安全教育を朝礼前の1分半で

現場往復の交通事故も労災になる|社用車の管理と教育の範囲

約8分で読めます 安全ドリル+編集部
社用車 管理交通労働災害安全運転管理者アルコールチェック建設業
共通の現場で起きる熱中症の場面(安全ドリル+の教材より)
安全ドリル+の教材より

社用車での移動中に起きる事故を業務災害の視点で整理し、安全運転管理者の選任基準・アルコールチェック・荷の固縛・冬期装備・教育の範囲までまとめます。

現場の朝、社用車で資材を積んで移動する時間は、業務のうちに数えられていないことが多い。だが事故はこの時間帯にも起きる。朝礼前の慌ただしい時間帯ほど、点検も点呼も後回しにされがちである。荷を積み終えた安心感から、出発直前の確認が特に手薄になりやすい。

通勤か業務かという線引きは別の記事で扱った。本稿は一歩進めて、社用車そのものをどう管理するか、教育として何を扱うべきかに絞って整理する。管理の主体を誰が担うのか、日々の教育にどこまで組み込むのかという、現場の安全担当が実際に頭を悩ませる部分である。

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社用車を使う移動は「業務」として扱われる

資材や工具を積んだ社用車で現場へ向かう移動は、会社の指示にもとづく業務そのものである。単なる住居と就業場所の往復とは扱いが異なり、事故が起きれば業務災害として労働災害の枠組みで判断される場面が多い。

厚生労働省の「交通労働災害防止のためのガイドライン」は、労働安全衛生関係法令や自動車運転者の労働時間等の改善基準と一体で運用することを前提に、事業者が講ずべき対策を示している(出典:厚生労働省「交通労働災害防止のためのガイドライン」)。ガイドラインが強調するのは、労働時間管理・乗務前点呼・早朝運転を避ける計画作成の3点であり、いずれも運転そのものの技量ではなく、運転に入る前の管理に重心を置いている。

現場の安全担当が交通労働災害を「道路交通法の話」として警察や保険の担当に任せきりにしがちなのは、この管理の主体が事業者側にあるという整理が抜けているためである。交通事故は現場の墜落・転落・はさまれといった典型的な労働災害と比べると、安全担当の意識から抜け落ちやすい領域でもある。現場に着いてからのKY活動は熱心に行っていても、そこへ至る移動そのものをリスクとして扱っていない現場は珍しくない。

労働災害としての扱いになれば、休業補償や再発防止対策の検討など、事業者側の対応も通常の現場災害と同様に発生する。移動中の事故だからといって、対応の重さが軽くなるわけではない。

社用車の管理として求められること

一定台数以上の自動車を使う事業所には、道路交通法にもとづく安全運転管理者の選任義務がある(出典:e-Gov法令検索 道路交通法)。乗車定員11人以上の車は1台から、それ以外の車は5台以上を使用する事業所ごとに1名の選任が必要で、20台以上になると副安全運転管理者も置く。

安全運転管理者の業務には、運転者への指導・教育のほか、2022年4月から義務化された酒気帯びの目視確認、2023年12月からは検知器を用いた確認が含まれる。記録として残す項目は、確認者名・運転者名・車両を特定できる番号・確認日時・確認方法・酒気帯びの有無・検知器使用の有無・指示事項である。

建設現場では、朝礼前に社用車で移動する職人が多く、乗務前点呼が朝礼と混ざって曖昧になりやすい。安全運転管理者を選任していても、点呼が形だけになっていないかは定期的に確認したい。

安全運転管理者の職務には、点呼のほかにも運転者の適性等の把握や運転免許証の確認、運転計画の作成、異常気象時の措置の判断が含まれる。建設業のように複数の現場へ社用車を出す業種では、運転計画が現場ごとにばらばらに立てられ、管理者本人がすべての行き先を把握しきれていないことがある。誰が・どの車で・どの現場へ向かうかを一覧できる形にしておかないと、選任した意味が形骸化する。

選任した安全運転管理者が、日々の現場業務も兼任しているケースは多い。専任の担当者を置ける規模の会社ばかりではないため、現実には所長や安全担当が名目上の管理者を兼ねていることが珍しくない。兼任である以上、点呼や記録の確認が後回しになりやすい構造がある点は、あらかじめ理解しておく必要がある。

荷の固縛が原因の事故

資材を積んだ社用車の事故には、荷の固縛不足が絡むものが少なくない。急ブレーキで荷が動き、運転操作を誤る、あるいは荷台から荷が落下して後続車や歩行者を巻き込む、という経路である。

固縛の基本は、重心を低く・前寄りに置くこと、ロープやラッシングベルトで複数方向から固定すること、走行前に必ず目視で確認することの3点に集約される。長尺の資材は荷台からのはみ出し量にも道路交通法上の制限があり、積載方法の教育を怠ると法令違反にも直結する。

軽トラックや小型のバンで資材を運ぶ場合ほど、固縛が省略されがちである。荷台が小さく、資材が動く余地も限られているように見えるため、「このくらいなら固定しなくても大丈夫」という油断が生まれやすい。実際には、車体が小さいほど急ブレーキ時の荷崩れが運転席に近い位置で起きやすく、むしろ注意が必要な条件でもある。

固縛は運転者個人の経験に依存しがちな作業でもある。ベテランほど「いつものやり方」で済ませ、若手はやり方を教わらないまま真似をする。手順を言語化して教育に組み込まないと、属人化したまま引き継がれていく。

固縛のチェックを走行前の点呼と切り離してしまう現場も多い。点呼で酒気帯びの有無だけを確認し、荷台の状態は運転者本人の判断に任せきりにしていると、固縛不足を第三者が発見する機会がないまま出発してしまう。点呼のチェック項目に荷の状態を含めておくだけで、確認する目が1人から2人に増える。

冬期の路面と装備

積雪・凍結地域の現場では、冬期特有の準備が交通労働災害の防止に直結する。スタッドレスタイヤやチェーンの装着はもちろん、出発前の窓・ミラーの霜取り、フロントガラスの視界確保も点呼の確認項目に含めたい。

早朝の出発は、路面凍結の危険が最も高い時間帯と重なりやすい。前述のガイドラインが「早朝運転をできる限り回避する」計画作成を求めているのは、この時間帯のリスクを踏まえてのことである。現場の始業時刻を早めるほど、この時間帯の移動が増える点は見落とされやすい。工期を優先して始業時刻を前倒しする判断が、結果的に最もリスクの高い時間帯へ移動を集中させてしまうことがある。

積雪地域以外の現場でも、路面の凍結は油断できない。橋の上や日陰になる区間は、気温が氷点下でなくても部分的に凍結することがある。冬期装備というと車両側の準備が中心になりがちだが、走行ルート上のどこが凍結しやすいかという土地勘も、運転者への教育として共有しておく価値がある。

長時間労働と事故の関係

移動時間そのものが長い現場では、疲労が事故の一因になる。自動車運転者の労働時間等の改善基準は拘束時間・休息期間の基準を定めており、社用車での移動が「運転者の労働時間」に含まれる場合はこの基準の対象になる。

建設業の職人が現場から現場へ社用車で移動する日が続くと、運転時間が積み上がっていることに本人も会社も気づきにくい。移動時間を業務時間として記録する仕組みがないと、疲労の蓄積を把握する材料そのものが残らない。

複数の現場を掛け持ちする所長や職長ほど、この積み上がりに気づきにくい立場にある。1つの現場への行き帰りだけを見れば短い移動でも、1日のうちに何度も現場を往復すれば、運転時間の合計は思った以上に長くなる。移動そのものを「仕事の一部」として扱う意識が、まず必要になる。

教育としてどこまで扱うか

安全運転管理者制度そのものは、選任と点呼の運用が中心であり、日々のKY活動や安全教育とは別の制度として運用されている現場が多い。ただし、荷の固縛・冬期装備・長時間移動の注意点は、日々の安全教育の題材として十分に扱える内容である。

教育の範囲を線引きするなら、免許や検知器の運用ルールは安全運転管理者の職務として、荷の固縛や季節ごとの注意は現場全体の日々の教育として、それぞれ役割を分けて考えるのが実務的である。後者は、練習用の映像教材のような短時間の教育に載せやすい題材でもある。

社用車の事故が起きた場合の対応フローも、日々の教育とは別に明文化しておきたい事項である。誰にまず連絡するか、現場は誰が代わりに引き継ぐか、警察・保険会社への連絡は誰が行うかを決めておかないと、事故発生時の混乱がそのまま対応の遅れにつながる。免許証の有効期限や、更新時講習の区分(優良・一般・違反)を安全運転管理者が把握しているかどうかも、点呼の運用と合わせて定期的に確認しておくべき点である。

教材に落とし込む際は、荷の固縛や冬期装備を単発の題材として扱うのではなく、季節や現場の状況に応じて定期的に繰り返す構成にしたい。冬場だけ注意喚起して春以降は触れない、という運用では、翌年の冬に同じ抜け漏れが再発しやすい。年間を通じて時期ごとの題材を回していく発想が、社用車の管理にも当てはまる。

日々のKY活動を記録として積み上げる考え方は、毎日のKY活動を記録に変えるで整理している。通勤と業務の線引きそのものは、現場への移動中の事故も労災になるで扱っている。

本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士等の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。


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よくある質問

Q. 安全運転管理者は現場ごとに選任が必要ですか。

選任単位は「自動車の使用の本拠」であり、多くの場合は現場ではなく会社の営業所・事業所です。複数の現場に社用車を出す場合も、車両の使用拠点が同じであれば選任は1つで足ります。

Q. アルコールチェックは白ナンバーの社用車にも必要ですか。

必要です。2022年4月から目視確認、2023年12月からは検知器を用いた確認が、安全運転管理者を選任している事業所の白ナンバー車にも義務づけられています。

Q. 荷の固縛の教育は誰が担当すべきですか。

固縛作業そのものは運転者や積込担当が行いますが、教育としての周知は現場の安全担当が担うのが一般的です。属人化を避けるため、手順を言語化して共有することが有効です。

Q. 移動時間の記録は何のために残すのですか。

長時間労働と交通労働災害の関係を把握するためです。移動時間を業務時間として記録していないと、疲労の蓄積に会社側が気づく手段がなくなります。

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