バックホウが旋回するとき、機体の後ろ側は運転者からほとんど見えません。厚生労働省が公表した令和7年の労働災害発生状況(確定値)によると、建設業における「はさまれ・巻き込まれ」による休業4日以上の死傷者数は1,496人に上ります(出典:厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定)」)。この記事では、バックホウの旋回範囲に人を入れないための、立入禁止の決め方と誘導員の実務を整理します。
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旋回による災害はなぜ繰り返すか
旋回による災害が繰り返される理由は、機体の後ろ側が運転者の死角になっているためです。運転席から見えるのはバケットのある前方が中心で、運転席の真後ろ、ブームの反対側にあたるカウンターウェイトの動きは、振り返らない限り見えません。
現場では、機体の後ろとブロック塀の間に人が立ってしまう場面が見られます。旋回するカウンターウェイトが壁に近づくと、すでに肩幅より狭い隙間しか残っていない状態です。運転者と目が合っていない状態でこの隙間に立つことは、いない者として動かされることと同じ意味を持ちます。窓を閉めた運転席では、外からの声も届きません。
もうひとつ繰り返し見られるのが、旋回範囲を示すバリケードテープとコーンが用意されているのに、まとめて端に置かれたまま使われていない場面です。人が歩く通路が、囲いのないまま重機のすぐそばを通っている現場では、歩いている本人が旋回範囲に気づかないまま近づいてしまいます。用意すること自体は対策になりません。作業を始める前に実際に張り、通路を切り替えるか区域を分けて初めて、囲いとしての意味を持ちます。
立入禁止の範囲をどう決めるか
労働安全衛生規則第158条は、車両系建設機械を用いて作業を行うときは、運転中の車両系建設機械に接触することにより危険が生ずるおそれのある箇所への立入りを、表示その他の方法により禁止しなければならないと定めています。ただし、誘導者を配置してその者に誘導させるときはこの限りでないとも定められています(出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。同条第2項は、車両系建設機械の運転者が誘導者の誘導に従わなければならないことも定めています。
立入禁止の範囲は、機体の旋回半径に、作業に応じて動くブームやバケットの届く距離を足して決めます。旋回半径だけを基準にすると、ブームを伸ばした瞬間に範囲の外まで届いてしまう場合があります。バリケードテープとコーンは、作業を始める前に張ってから重機を動かすという順番を守らなければ、囲いとして機能しません。用意しているだけで置かれたままになっている現場が、実際には少なくありません。
範囲を決めるときは、機体が停止している状態だけでなく、掘削・旋回・後退のそれぞれの動作でどこまで届くかを個別に確認する必要があります。停止した状態を基準に範囲を決めると、実際に動き出したときに想定より広い範囲まで機体やバケットが届いてしまうことがあります。
誘導員の配置と、立ってはいけない位置
誘導員は、運転者の目の代わりとして死角をなくす役割を持ちます。誘導員自身が機体のすぐ後ろに立ってしまうと、誘導する立場の人間が挟まれる側になってしまい、本来の役割を果たせません。誘導員は、運転者から見える位置に立ち、かつ自分も旋回範囲の外に出ている必要があります。
見張りを置く場合も同様です。掘っている穴の縁に立って中を見ながら合図を送るという配置は、旋回範囲に入り込んでいる可能性があり、避けるべきです。誘導員も見張りも、常に「運転者から見えるか」「自分は旋回範囲の外か」という2点を、立ち位置を決める基準にする必要があります。
誘導員を置いたことで安心し、他の作業員がそのまま近づいてよいと考えてしまう現場もあります。誘導員がいることは、近づく本人が確認を省略してよい理由にはなりません。誘導員の合図と、近づく側の確認は、どちらか一方ではなく両方がそろって初めて機能します。
合図が通じない3つの場面
合図が通じない場面は、大きく3つに分けられます。1つ目は、運転席の窓が閉まっていて声が届かない場面です。2つ目は、耳栓や防音保護具をしていて、作業員の側が周囲の音に気づけない場面です。3つ目は、合図者が荷や機体の陰に入り、運転者から見えなくなる場面です。
いずれも、声や音だけに頼る合図では解決しません。手の合図を先に決めておき、合図を送った側が「相手が気づいた」ことを、うなずきや機体が止まったという事実で確認してから動くという手順が必要です。手を振っただけで気づいてもらえたと思い込み、そのまま機体の後ろを通ろうとする判断は、最も避けるべき行動です。
夏場は日差しの照り返しで、冬場は防寒着のフードで、合図者の姿そのものが見えにくくなる場面もあります。季節によって合図の見えやすさが変わることも、現場ごとに意識しておく必要があります。
後退時の死角
バックホウは旋回だけでなく、後退するときも死角が生まれます。凍結した地面など、足場が悪い状況で作業していると、爪が滑った反力で機体が予期せず動くこともあります。滑った場合の力は地面ではなく機体に返り、運転者が意図した位置で止まらない可能性があります。
動いている機体の近くに立つときは、機体の長さ分の距離を離れることが、唯一確実な保護になります。近づく必要がある場合は、機体が完全に止まったことを目で確認してから一歩を出す習慣を徹底する必要があります。
耳栓や防音保護具を着けて作業している人は、バック時の警報音そのものが聞こえない状態にあります。音に頼らず、機体が動き出す前に目で見て確認する、あるいは誘導員の姿を確認してから作業に戻るという手順を、耳を保護する作業と必ずセットで教育しておく必要があります。
KYで毎日確認する形にする
毎日のKYでは、今日の作業でバックホウがどこまで旋回するか、後退する範囲はどこかを、抽象的にではなく具体的に確認します。誘導員が配置される作業か、配置されない場合は立入禁止の範囲がどこまで囲われているかも、あわせて確認する項目です。
毎日のKY活動をどう記録に変えるかは、毎日のKY活動を記録に変えるを参照してほしい。重機と人を分ける考え方全体は、建設現場の挟まれ・巻き込まれにまとめている。
本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士等の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- 建設業における「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数は令和7年で1,496人に上ります(令和7年確定値、厚生労働省)
- 労働安全衛生規則第158条は、車両系建設機械への接触のおそれがある箇所への立入禁止と、誘導者配置による例外を定めています
- 立入禁止の範囲は、旋回半径にブームやバケットの届く距離を足して決めます
- 誘導員・見張りは、運転者から見える位置に立ち、自分も旋回範囲の外に出る必要があります
- 合図は声や音だけに頼らず、相手が気づいたことを確認してから動く手順を徹底します
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よくある質問
Q. 誘導員がいれば、立入禁止の表示や囲いは省略できますか
労働安全衛生規則第158条は、表示による禁止か誘導者の配置のいずれかを求めています。誘導者を配置する場合でも、旋回範囲を現場全員が把握できるよう、表示を併用することが実務上望ましいとされています。
Q. 旋回半径はどこを基準に測ればよいですか
機体の中心から、カウンターウェイトやブームの最も外側まで届く距離を基準にします。ブームを伸ばした状態を想定し、余裕を持たせて範囲を決める必要があります。
Q. 凍結した地面での作業は、通常時と何が違いますか
爪が滑ることで反力が機体に返り、運転者の意図しない動きにつながるおそれがあります。凍結した現場では、通常より広めに距離を取り、表面を割ってから掘るなどの対応が必要です。