「監査で指摘されないよう、とりあえず様式を埋めておく」。この発想では、労働基準監督署の調査でも社内の労働災害調査でも、同じ弱点が露呈する。様式の欄が埋まっていても、なぜその評価になったのかを説明できなければ、調査を実施した証拠にはならない。
リスクアセスメントは労働安全衛生法第28条の2に基づく事業者の努力義務である。根拠となる「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年3月10日付け基発第0310001号、指針公示第1号、同年4月1日適用)は、様式の書式ではなく、見積りの基準と記録すべき項目を定めている。この記事では、その基準の決め方と、何を残せば「やった」ことになるのかを整理する。
リスク低減措置の多くは、最終的に「教育で周知する」という管理的対策に行き着く。手順書を整備しても、当日の現場でその手順を思い出させる仕組みがなければ低減措置は機能しない。安全ドリル+は、現場のQRを読むだけで10秒の動画が5本流れ、危険を探して3択に答える形式で、決めた手順の周知を毎日の記録として残す。
安全ドリル+を1問だけ試す · 10秒の映像 → 3択
考えて答える
この脚立の 使い方の どこが 危ない?
様式より先に決めること
リスクアセスメントの様式(見積り表)を配布している事業場は多い。しかし様式は入れ物にすぎず、埋める前に決めておくべきことがある。指針は「必ずしも数値化する必要はなく、相対的な分類でも差し支えない」としており、手法そのものに正解はない。決めておくべきなのは、誰が見積もっても同じ優先順位になるための基準——重篤度と可能性の度合をどう区分するか、どの尺度を共通で使うか——である。
この基準を決めないまま様式だけを配ると、見積もる人によって「中」と「高」の境目が変わり、同じ現場で評価がばらつく。労働基準監督署の調査で問われるのは、様式の体裁ではなく、この基準が事業場内で共有されているかどうかである。
危険性又は有害性を洗い出す
労働安全衛生法第28条の2第1項は、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるよう努めることを事業者に求めている。化学物質等による危険性又は有害性の調査はすべての業種が対象だが、それ以外(機械設備や作業方法など)の調査は、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者が対象となる。
指針8は、この特定の手順を次のように定める。
事業者は、作業標準等に基づき、労働者の就業に係る危険性又は有害性を特定するために必要な単位で作業を洗い出した上で、各事業場における機械設備、作業等に応じてあらかじめ定めた危険性又は有害性の分類に則して、各作業における危険性又は有害性を特定するものとする。
作業標準がない場合は、作業の手順を書き出した上で、段階ごとに危険性又は有害性を特定する。指針が示す分類例には、機械等による危険性、爆発性・発火性・引火性・腐食性の物による危険性、電気・熱その他のエネルギーによる危険性、作業方法から生ずる危険性、作業場所に係る危険性などがある。各事業場で独自の分類を使っても差し支えないが、洗い出しの単位がその都度変わると、同じ作業を見積もり漏れする原因になる。
リスクの見積り方法を選ぶ
指針9は、リスクの見積り方法として代表的な3手法を示している。いずれかを選べばよく、複数を併用する必要はない。
マトリクス法 — 負傷又は疾病の重篤度と発生する可能性の度合をそれぞれ縦軸と横軸とした表に、あらかじめ重篤度と可能性の度合に応じたリスクを割り付けておき、見積対象の重篤度に該当する列と可能性の度合に該当する行を選んでリスクを見積もる方法。最も広く使われている。
数値化法 — 負傷又は疾病の発生する可能性の度合とその重篤度を一定の尺度でそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等してリスクを見積もる方法。優先順位を細かく比較したい場合に向く。
枝分かれ法(リスクグラフ) — 負傷又は疾病の重篤度、危険性へのばく露の頻度、回避可能性等をステップごとに分岐させてリスクを見積もる方法。
いずれの手法でも、重篤度と可能性の度合を区分する基準が要る。指針の別添4は例として、重篤度を「致命的(死亡災害や永久損傷を伴うもの)」「重大(休業1か月以上)」「中程度(休業1か月未満)」「軽度(不休災害等)」の4区分、可能性の度合を「極めて高い(日常的・長時間・回避困難)」「比較的高い(日常的・回避可能)」「ある(非定常的・回避可能)」「ほとんどない(まれ・回避可能)」の4区分で示している。これをそのまま使ってもよいし、現場の実態に合わせて調整してもよいが、調整した基準は文書化して事業場内で共有する必要がある。
見積りでよくある判断のブレ
同じマトリクス法を使っていても、見積り結果が担当者によってばらつく事業場は少なくない。指針9(2)は、見積りに当たって留意すべき事項を挙げている。
まず、予想される負傷又は疾病の対象者及び内容を具体的に予測すること。「危険がある」という抽象的な評価ではなく、誰にどのような負傷が起きるかを予測した上で重篤度を見積もる。次に、過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もること。「今まで大きな事故は起きていない」という実績は、見積りの根拠にならない。そして、重篤度の尺度は負傷や疾病の種類にかかわらず、基本的に休業日数等の共通の尺度を使うこと。
この3点がずれると、同じ作業でも評価者ごとに「軽度」と「重大」が入れ替わる。基準を決める段階で、この3点をチェックリストとして共有しておくと、見積りのブレを減らせる。
リスク低減措置は優先順位通りに実施する
見積もったリスクへの対応は、指針10(1)が定める優先順位で検討する。
- 除去・低減 — 危険な作業の廃止・変更、より危険性又は有害性の低い材料への代替など、設計や計画の段階から除去又は低減する措置
- 工学的対策 — ガード、インターロック、安全装置、局所排気装置の設置等
- 管理的対策 — マニュアルの整備、立入禁止措置、教育訓練、健康管理等
- 個人用保護具の使用 — 呼吸用保護具や保護衣等
保護具の使用は最後の手段であり、1〜3の措置の代替として使ってはならない。また、低減に要する負担が防止効果に比べて著しく大きい場合を除き、可能な限り高い優先順位の措置を実施する(いわゆるALARPの考え方)。死亡や後遺障害につながるおそれのあるリスクで、恒久対策に時間を要する場合は、暫定的な措置を直ちに講ずることが求められる。
3番目の管理的対策には教育訓練が含まれる。決めた手順を「配ったから終わり」にせず、現場で実際に思い出させる形にできるかどうかが、この措置が機能するかどうかの分かれ目になる。
記録に残す5項目
指針11は、記録すべき事項を次の5点に定めている。
| 記録項目 | 内容 |
|---|---|
| (1) 洗い出した作業 | どの作業単位で洗い出したか |
| (2) 特定した危険性又は有害性 | 何を危険源として特定したか |
| (3) 見積もったリスク | 重篤度・可能性の度合とその評価結果 |
| (4) 設定したリスク低減措置の優先度 | どの優先順位で対応することにしたか |
| (5) 実施したリスク低減措置の内容 | 実際に何を行ったか |
この5項目を記録するに当たっては、調査等を実施した日付及び実施者を明記することが通達で求められている。また、リスク低減措置には、当該措置を実施した後に見込まれるリスクを見積もることも含まれる。つまり「対策をした」で終わらせず、対策後にリスクがどこまで下がったと見積もったかまでが記録の対象である。調査等の記録は、次回調査等を実施するまで保管する。
いつ実施し、いつ再調査するか
指針5は、調査等を実施する時期として、建設物の設置・移転・変更・解体、設備の新規採用・変更、原材料の新規採用・変更、作業方法又は作業手順の新規採用・変更、そしてその他リスクに変化が生じ又は生ずるおそれのあるときを挙げている。最後の項目には、労働災害が発生した場合であって過去の調査等の内容に問題がある場合や、前回の調査等から一定期間が経過し設備の経年劣化や労働者の入れ替わり等があった場合が含まれる。
労働災害が発生した際の再調査は、まさに原因分析の場面である。指針は「過去の調査等の内容に問題がある場合」に再調査を求めているが、これは既存のリスク低減措置がなぜ機能しなかったのかを分析することが前提になる。この原因分析を場当たり的に行うと、同じ表面的な結論(「注意不足」「不注意」)に落ち着きやすく、次の調査等にも活かされない。型に沿って原因を掘り下げたい場合は、WhyTrace Plusのような是正処置の記録・追跡を支援するツールも選択肢になる。
なお本記事の内容は2026年8月時点で確認できる公開情報・法令に基づいています。個別の事業場への適用は、労働基準監督署や専門家にご確認ください。
本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、専門家または所轄の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- リスクアセスメントは労働安全衛生法第28条の2に基づく努力義務であり、指針(基発第0310001号)が見積り方法と記録項目を定めている
- 様式を埋める前に、重篤度・可能性の度合の区分基準を決め、事業場内で共有する必要がある
- 見積り方法はマトリクス法・数値化法・枝分かれ法のいずれかでよく、複数の併用は必須ではない
- 見積りは最悪の状況を想定し、休業日数等の共通尺度で重篤度を評価する
- リスク低減措置は除去・低減→工学的対策→管理的対策→保護具の優先順位で検討する
- 記録に残すのは、洗い出した作業・特定した危険性又は有害性・見積もったリスク・設定した優先度・実施した措置の内容の5項目で、実施日付と実施者の明記も求められる
なお、ヒヤリハットの収集は姉妹アプリの安全ポスト+が担う。現場と組織の登録は2つのアプリで共有している。
実際の画面を1分半で試す
QRを読むと10秒の映像が5本流れ、最後の1問だけが記名の記録として残ります。 アプリのインストールもログインも要りません。
- 職人が見る画面をそのまま試す
- サービスガイド(PDF) — 導入の流れと記録の様式
- 料金 — 1現場あたりの月額
よくある質問
Q. リスクアセスメントをやらないと罰則がありますか
労働安全衛生法第28条の2は努力義務として規定されており、この条文自体に直接の罰則はありません。ただし、調査の結果に基づいて安衛法令上の具体的な措置義務(機械の覆いの設置など)が生じている場合、その個別の義務に違反すれば罰則の対象になり得ます。
Q. 数値化しないと監督署の調査で問題になりますか
指針は「必ずしも数値化する必要はなく、相対的な分類でも差し支えない」としています。数値化の有無ではなく、見積りの基準が明確で、事業場内で一貫して運用されているかどうかが問われます。
Q. 記録はどのくらいの期間保管すればよいですか
指針は「次回調査等を実施するまで」保管するとしています。次回の調査等を行う一定の期間は、事業者が設備や作業等の状況を踏まえて決定し、計画的に実施することが求められます。
Q. 過去に事故がなかった作業は対象外にできますか
指針6(2)は、平坦な通路における歩行等、明らかに軽微な負傷又は疾病しかもたらさないと予想されるものについては対象から除外して差し支えないとしています。ただし「たまたま軽微な負傷又は疾病しか発生しなかった」というだけでは、この除外に含まれません。
Q. 見積りは誰が行うべきですか
指針4は、総括安全衛生管理者等に統括管理させ、安全管理者・衛生管理者等に実施を管理させるとともに、作業内容を詳しく把握している職長等に危険性又は有害性の特定やリスクの見積りを行わせるよう努めることを求めています。安全衛生委員会等を通じて労働者を参画させることも定められています。