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化学物質の自律的管理で現場は変わる|ラベル・SDS・リスクアセスメント

約9分で読めます 安全ドリル+編集部
化学物質管理者化学物質の自律的管理リスクアセスメント対象物質SDS労働安全衛生規則
共通の現場で起きる転倒の場面(安全ドリル+の教材より)
共通 転倒 安全ドリル+の教材より

2024年4月施行の化学物質管理者選任義務化と、2026年4月のリスクアセスメント対象物質拡大を厚労省資料にもとづき整理。今日から確認すべき手順をまとめました。

化学物質による労働災害の多くは、特別規則で名指しされた物質ではなく、その外側にある物質から起きています。厚生労働省が公開する「化学物質管理者講習テキスト」(第1版、2023年3月)は、日本では化学物質による休業4日以上の労働災害のうち、特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則などの規制対象外物質を原因とするものが約8割を占めると整理しています。規制対象物質への対策には力を入れる一方、それ以外の物質への対策が手薄になり、あるいは危険性・有害性が不明な物質へ切り替え使用したことが、事故の背景にあると指摘されています。

この状況を変えるために進んでいるのが「自律的な管理」への移行です。2024年4月1日に化学物質管理者の選任が義務化され、2026年4月にはリスクアセスメント対象物質が大幅に拡大されました。この記事では、条文と厚労省資料にそって、何が変わり、今日から何を確認すべきかを整理します。製造業で化学物質を取り扱う事業場の安全管理者を想定しています。

制度を理解していても、現場の全員がラベルとSDSの意味を知らなければ、リスクアセスメントは機能しません。安全ドリル+は、現場のQRを読むだけで化学物質の取り扱いルールを毎朝短く思い出させる仕組みです。

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個別規制型が抱えていた限界

日本の化学物質管理は、50年あまりにわたって「個別規制型」で運用されてきました。特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則などの特別規則が、対象物質ごとに管理体制や作業環境測定、保護具の使用を細かく定める仕組みです。事業者はこれらの規則を守ることで、事故や病気の予防に取り組んできました。

ただし、この方式で規制の対象になっている物質は、2022年12月時点で123物質にとどまります。工業的に使用されている物質数が約7万といわれる中で、規制対象はごく一部です。ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントが義務づけられている物質数も、同時点で674物質でした。危険性・有害性が特定され、それに対する規制が存在するのはこの範囲に限られ、それ以外の物質は事業者の自主判断に委ねられていたことになります。

厚生労働省は2019年9月から2021年7月にかけて計15回の検討会を開き、この個別規制型から、事業者がリスクアセスメントの結果にもとづき、国の定める基準の範囲内でばく露防止措置を自ら選んで実施する「自律的な管理」への転換を打ち出しました。理由は、化学物質による労働災害の多くがすでに未規制物質で起きていること、物質数の増加と用途の多様化で個別のリストアップが追いつかないこと、国際的な化学物質管理の基準を取り入れる必要があることの3点です。

化学物質管理者の選任は事業場規模を問わない

自律的な管理の実行を目的とした省令改正により、労働安全衛生規則第12条の5は、リスクアセスメント対象物を製造し、または取り扱うすべての事業場において、化学物質管理者を選任するよう義務づけました。施行日は2024年4月1日です。

ここで見落とされやすいのが「事業場の規模にかかわらず」という条件です。従業員が数人の事業場であっても、リスクアセスメント対象物を扱う限り選任義務の対象になります。対象外となるのは、一般消費者の生活の用に供される製品のみを取り扱う事業場だけです。

選任の期限にも定めがあります。安衛則第12条の5の3は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任するよう求めています。リスクアセスメント対象物を製造する事業場では、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習を修了した者のうちから選任しなければなりません。一方、製造以外の事業場(取り扱うだけの事業場)には、専門的講習の受講という資格要件はなく、事業者の裁量で「必要な能力を有すると認められる者」から選任できます。ただし、既存の衛生管理者や安全衛生推進者、作業環境測定士などの中から、化学物質について専門的な知識を持つ人材を充てるのが実務上の候補になります。

事業者は、化学物質管理者を選任したときは、その氏名を事業場の見やすい箇所に掲示するなどして、関係労働者に周知しなければなりません(安衛則第12条の5の5)。また、化学物質管理者がその職務を遂行できるよう、必要な権限を与える義務も定められています。

選任者が担う職務の中身

化学物質管理者の職務は、ラベル・SDS等の作成の管理、リスクアセスメントの実施および記録の保存、ばく露低減対策、労働災害発生時の対応、労働者への教育など、化学物質管理に関わる技術的事項全般に及びます。1人ですべてを担うのが難しい規模の事業場では、複数人を選任して職務を分担することもできますが、その場合は担当者間の連携を欠かさない体制が必要です。

見落とせないのは、化学物質管理者の選任と職務の対象に、特別規則(特化則・有機則等)が定める作業主任者の職務は含まれない点です。特化則・有機則等の対象物質を扱う作業場では、有機溶剤作業主任者や特定化学物質作業主任者などの選任義務が別途続いています。化学物質管理者は、これらの特別規則が及ばない物質への対応を担う役割であり、特別規則の経験が薄い管理者は、対象物質の扱いについて作業主任者に相談する体制を整えておく必要があります。

さらに2024年4月1日には、労働者のばく露防止のために使用する保護具の選択・管理を担う「保護具着用管理責任者」の選任も義務化されました(安衛則第12条の6)。呼吸用保護具や保護衣、保護手袋などの選択と管理(保管・交換等)を行う責任者で、化学物質管理者とは別に置く必要があります。

リスクアセスメント対象物質の拡大が意味すること

2022年12月時点で674物質だったリスクアセスメント対象物質は、2026年4月に約2,900物質へと拡大されました。国によるGHS分類が行われたほぼすべての物質(環境影響のみによるものを除く)が対象になった結果です。リスクアセスメント対象物質と、ラベル表示・SDS交付が義務となる物質は同じ範囲を指すため、これまでラベルやSDSの確認対象ではなかった物質を扱っている事業場でも、新たに義務の対象に入っている可能性があります。

実務上、まず必要なのは棚卸しです。現場で使用している洗浄剤、接着剤、塗料、溶剤などについて、SDSが交付されているか、GHS分類のラベル表示があるかを、2026年4月以降のタイミングで再確認する作業が欠かせません。国が公表するGHS分類結果は製品評価技術基盤機構(NITE)のホームページで確認でき、混合物についても同機構が公表するNITE-Gmiccsである程度の分類が可能です。ただし最終的な分類結果の判断は、専門家に相談することが推奨されています。

厚生労働省の資料は、危険性・有害性のある化学物質による労働災害が、休業4日以上のものでも年間400件以上起きていると示しています。事業場の労働者数別に見ると、爆発・火災・破裂は30人未満の小規模事業場で件数が多い一方、有害物との接触(吸入や皮膚・眼への直接的な接触)は100〜499人規模の事業場でも件数が増える傾向があります。取り扱う化学物質の種類や作業者数が増えることが背景にあると考えられています。

今日からできること

条文を理解するだけでは、現場の作業は変わりません。今日から始められる確認は次の3点です。

これらは特別な設備投資を伴わず、今の作業のやり方を見直すだけで着手できる内容です。

教育で確認しておきたいこと

化学物質による災害の実例を見ると、有機溶剤を含む接着剤の乾燥待ちの最中に、床面の補修でライターを使い爆発した事例、換気の乏しい室内でエタノールによる洗浄作業中にストーブの火が引火し死亡した事例など、いずれも「危険性・有害性を知っていれば避けられた」ケースが並びます。共通するのは、作業計画の未整備と、作業者への安全衛生教育の不足です。

安全ドリル+は、こうした「知っているはずだが当日は思い出せない」手順の確認に向いています。現場のQRを読むと、10秒の縦型動画が5本流れ、危険な箇所を探して3択に答える形式です。最後の1問だけが氏名・所属会社つきの記名テストになり、教育を実施した記録として残ります。所要時間は1分半、アプリのインストールもログインも不要で、監督者は記録をPDF・CSVで出力できます。無料でお試しいただけます。

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よくある質問

Q. 化学物質管理者は資格が必要ですか

リスクアセスメント対象物を製造する事業場では、厚生労働大臣が定める専門的講習の修了が必要です(安衛則第12条の5の3)。製造以外の事業場では専門的講習の受講資格要件はなく、事業者が必要な能力を有すると認める者から選任します。

Q. 化学物質管理者と保護具着用管理責任者は兼任できますか

条文上、兼任を禁じる規定はありません。ただし小規模事業場を除き、それぞれの職務量を考えると、担当者間の連携体制を明確にしたうえで運用するのが実務的です。

Q. リスクアセスメント対象物質かどうかは、どこで確認できますか

労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第18条各号に掲げる物および法第57条の2第1項に規定する通知対象物が該当します。個別の物質については、製品評価技術基盤機構(NITE)が公表するGHS分類結果や、製品のSDSで確認します。

Q. 化学物質管理者を選任したことは、誰に周知する必要がありますか

安衛則第12条の5の5にもとづき、選任した化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示するなど、関係労働者に周知しなければなりません。

Q. 特別規則(特化則・有機則等)の対象物質は、化学物質管理者が管理するのですか

特別規則が対象とする物質の管理については、化学物質管理者の職務に特段の定めはなく、有機溶剤作業主任者などの選任・職務が引き続き適用されます。特別規則の経験が薄い化学物質管理者は、対象物質の扱いについて作業主任者と連携する必要があります。

本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、専門家または所轄の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。

まとめ

化学物質管理者化学物質の自律的管理リスクアセスメント対象物質SDS労働安全衛生規則