崩壊・倒壊災害は、墜落・転落や飛来・落下ほど件数が多くありません。しかし一度発生すると土砂に埋まった作業員の救出が難航し、死亡につながりやすい型です。厚生労働省が公表した令和7年の労働災害発生状況(確定値)によると、全産業の崩壊・倒壊による死亡者数は36人、死傷者数は1,793人でした。建設業に限ると、死亡者数214人のうち22人、死傷者数1万3,437人のうち373人が崩壊・倒壊によるものです(厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」、2026年5月公表)。
現場でよく聞くのは「掘削の深さが1.5メートルを超えたら土止め支保工が要る」という覚え方です。しかしこれは正確ではありません。労働安全衛生規則が定める基準は深さそのものではなく、掘削面の「こう配(勾配)」です。この記事では、こう配の基準と土止め支保工の設置基準、点検の頻度を条文にそって整理します。
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崩壊・倒壊による死亡・死傷者数
崩壊・倒壊とは、掘削した溝・坑・法面などの地山が崩れ落ち、あるいは仮設構造物が倒れることで作業員が被災する災害の型である。労働災害統計ではこの2つをまとめて1つの型として集計しています。
前述のとおり、令和7年の建設業における崩壊・倒壊の死亡者数は22人、死傷者数は373人です。死亡者数だけを見れば墜落・転落(建設業91人)より少なく感じますが、死傷者数に対する死亡者数の比率で見ると崩壊・倒壊は際立って高い型です。土砂に埋まった状態からの救出には時間がかかり、窒息や圧迫による重篤化が避けにくいためです。
件数の少なさは「起きにくい」ことを意味しません。掘削工事そのものの件数が墜落・転落を伴う高所作業ほど多くないため、母数に対する発生率は決して低くないというのが実態です。
土止め支保工とは何か
土止め支保工とは、掘削した溝や坑の側面が崩れないよう、矢板・切りばり・腹起こしなどの部材を組み合わせて地山を支える仮設構造物である。コンクリート打設時に型枠を支える「型枠支保工」とは名称が似ているが別物であり、混同すると点検項目も点検の頻度も取り違える。
地山は、こう配を十分に緩やかに取れる(法面を寝かせられる)だけの敷地の余裕があれば、支保工なしでも崩壊を防げます。逆に敷地が狭く、法面を寝かせられない場合に、土止め支保工で側面を垂直に近い状態のまま支える必要が生じます。つまり土止め支保工は「深さが一定を超えたら自動的に必要になるもの」ではなく、「安全なこう配を確保できないときに必要になるもの」です。
「深さ〇m以上で必要」という誤解を解く
労働安全衛生規則第356条は、明り掘削の作業における掘削面のこう配の基準を、地山の種類と掘削面の高さに応じて次のように定めています。
| 地山の種類 | 掘削面の高さ | こう配の基準 |
|---|---|---|
| 岩盤又は堅い粘土からなる地山 | 5m未満 | 90度以下 |
| 岩盤又は堅い粘土からなる地山 | 5m以上 | 75度以下 |
| その他の地山 | 2m未満 | 90度以下 |
| その他の地山 | 2m以上5m未満 | 75度以下 |
| その他の地山 | 5m以上 | 60度以下 |
さらに同条は、砂からなる地山については「こう配35度以下、又は高さ5m未満」、発破等により崩壊しやすい状態の地山については「こう配45度以下、又は高さ2m未満」としなければならないと定めています。
この表が示すとおり、基準は「地山の種類」と「掘削面の高さ」の組み合わせで決まります。同じ深さ2mの掘削でも、岩盤であれば垂直に近いこう配が許容される一方、砂地盤であれば大きく寝かせるかそもそも高さを抑える必要があります。「深さ1.5m」のような一律の数字は条文のどこにも登場しません。現場で語られる「1.5m」は、敷地が狭くこう配を確保できない現場で土止め支保工の検討を始める目安として広まった経験則であり、法令上の閾値ではないという点を、教育の場で明確にしておく必要があります。
なお、岩石の採取のための掘削については第357条が別の基準を定めており、崩壊・落下の原因となるき裂がない岩盤では高さ20m未満で90度以下、20m以上で75度以下と、より高い掘削面まで急なこう配が認められています。対象工事の性質によって参照する条文が異なる点にも注意が必要です。
支保工が要る場面と部材・構造の基準
敷地の制約でこう配の基準を満たせない場合、土止め支保工が現実的な選択肢になります。労働安全衛生規則第368条は、土止め支保工の材料について「著しい損傷、変形又は腐食があるものを使用してはならない」と定めています。同第369条は構造について、設置箇所の地山の形状・地質・地層・き裂・含水・湧水・凍結・埋設物等の状態に応じた堅固なものとしなければならないと定めています。
現場で見落とされやすいのは、これらが「一度組んだら終わり」の基準ではないという点です。掘削が進み地層が変わる、湧水が増える、隣接する掘削で地山の状態が変わるといった変化があれば、当初の設計が前提とした条件そのものが崩れます。土止め支保工の設置は、地質調査の結果と施工計画にもとづいて構造を決める段階から、専門的な判断を要する作業です。
作業主任者の選任と点検の頻度
労働安全衛生規則第359条は、掘削面の高さが2メートル以上となる地山の掘削作業について、地山の掘削作業主任者技能講習を修了した者のうちから作業主任者を選任しなければならないと定めています(労働安全衛生法施行令別表第六)。これは土止め支保工の要否とは別の基準で、こう配が基準を満たしていて支保工が不要な現場でも、高さ2m以上であれば作業主任者の選任が必要になります。「支保工がないから資格者もいらない」という理解は誤りです。
土止め支保工を設けたあとの点検については、第373条が時期を具体的に定めています。
「事業者は、土止め支保工を設けたときは、その後七日をこえない期間ごと、中震以上の地震の後及び大雨等により地山が急激に軟弱化するおそれのある事態が生じた後に、次の事項について点検し、異常を認めたときは、直ちに補強し、又は補修しなければならない。」
点検すべき時期は次の3つです。
- 設置後、7日をこえない期間ごと 定期点検として、1週間に1回以上のペースで確認する
- 中震以上の地震の後 地震の揺れで部材のゆるみ・地山のき裂が生じていないかを確認する
- 大雨等により地山が急激に軟弱化するおそれのある事態が生じた後 降雨による含水率の変化で地山の強度が落ちていないかを確認する
点検事項は、部材の損傷・変形・腐食・変位・脱落の有無、切りばりの緊圧の度合、部材の接続部・取付け部・交さ部の状態の3点です。「7日以内」という期限は、工程の忙しさを理由に先送りしてよい数字ではありません。地震や大雨は工程表と関係なく発生するため、点検のきっかけを工程管理とは別に、天候・地震情報と連動させて運用する仕組みが必要です。
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本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、専門家または所轄の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- 崩壊・倒壊による死亡者数は令和7年で全産業36人、建設業22人。死傷者数は全産業1,793人、建設業373人です(厚生労働省、令和7年確定値)
- 土止め支保工の要否を決めるのは「深さ」ではなく「こう配」。労働安全衛生規則第356条は地山の種類と掘削面の高さに応じたこう配の基準を表で定めています
- 「深さ1.5m」は現場の経験則であり、法令上の一律の閾値ではありません。敷地条件と地山の種類によって支保工の要否は変わります
- 土止め支保工の材料は第368条、構造は第369条が基準を定めます。設置後は状態が固定ではなく、地質や湧水の変化に応じた見直しが必要です
- 掘削面の高さが2m以上の作業には、こう配基準を満たす場合でも作業主任者(地山の掘削作業主任者技能講習修了者)の選任が必要です(第359条)
- 土止め支保工の点検は、設置後7日をこえない期間ごと、中震以上の地震の後、大雨等で地山が急激に軟弱化するおそれのある事態の後の3つのタイミングで行います(第373条)
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よくある質問
Q. 掘削の深さが1.5メートルを超えたら土止め支保工が必要というのは正しいですか
正確ではありません。労働安全衛生規則第356条が定める基準は「地山の種類」と「掘削面の高さ」の組み合わせによるこう配の基準です。岩盤であれば高さ5m未満で90度以下のこう配が認められており、深さだけで支保工の要否は決まりません。「1.5m」は敷地が狭くこう配を確保できない現場での経験則的な目安であり、法令上の閾値ではありません。
Q. 土止め支保工と型枠支保工は同じものですか
別のものです。土止め支保工は掘削した溝や坑の側面を支える仮設構造物で、労働安全衛生規則第368条以降が根拠です。型枠支保工はコンクリート打設時に型枠を支える仮設構造物で、根拠となる条文も点検項目も異なります。名称が似ているため現場の会話で混同されることがあります。
Q. 土止め支保工がない現場でも作業主任者は必要ですか
必要になる場合があります。労働安全衛生規則第359条は、掘削面の高さが2メートル以上となる地山の掘削作業について、こう配の基準を満たし支保工が不要な場合であっても、地山の掘削作業主任者技能講習を修了した者の選任を求めています。支保工の有無と作業主任者の要否は別の基準で判断します。
Q. 土止め支保工の点検は誰が行いますか
条文は点検の実施者を限定していませんが、部材の損傷や地山の状態を的確に判断するには、施工計画を理解した現場の責任者や、必要に応じて専門技術者が関与することが望まれます。点検結果に異常があれば、直ちに補強又は補修する義務が事業者に課されています。
Q. 大雨のあとは具体的にどのタイミングで点検すればよいですか
条文は「大雨等により地山が急激に軟弱化するおそれのある事態が生じた後」と定めており、具体的な雨量基準の数値は示していません。降雨が続いた翌朝、作業開始前に土止め支保工と周辺地山の状態を確認する運用を、あらかじめ現場のルールとして明文化しておくことが実務上有効です。