「掃除中に機械が動いた」。製造現場で最も避けたい事故の一つです。
こうした事故を防ぐための考え方が、ロックアウト・タグアウトです。海外の安全管理でよく使われる用語ですが、日本の法令にも実質的に同じ内容の規定があります。
この記事では、根拠となる法令と、現場で機能させるための実務のポイントを整理します。
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ロックアウト/タグアウトとは
ロックアウト・タグアウトとは、機械の点検や修理の前に動力源を遮断する手法である。起動装置に施錠と表示を行い、誤操作による起動を防ぐ。
英語のLockout(施錠)とTagout(表示)を組み合わせた略称で、LOTOとも呼ばれます。海外の製造業では標準的な安全手順として定着しています。
日本の法令に「ロックアウト・タグアウト」という用語そのものはありません。しかし、労働安全衛生規則第107条が定める措置は、実質的に同じ内容を求めています。
対象になるのは、掃除・給油・検査・修理・調整といった、機械を止めて行うのが原則の作業です。詰まった材料の除去やセンサーの清掃など、現場で日常的に発生する軽作業も含まれます。「日常的だから」という理由で対象から外れるわけではありません。
法令上の要求
法令上の要求とは、労働安全衛生規則第107条が事業者に課している、機械停止時の施錠・表示義務を指す。
同条第1項は次のように定めています。
事業者は、機械(刃部を除く。)の掃除、給油、検査、修理又は調整の作業を行う場合において、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、機械の運転を停止しなければならない。ただし、機械の運転中に作業を行わなければならない場合において、危険な箇所に覆いを設ける等の措置を講じたときは、この限りでない。
そして第2項が、施錠・表示の義務を定めています。
事業者は、前項の規定により機械の運転を停止したときは、当該機械の起動装置に錠を掛け、当該機械の起動装置に表示板を取り付ける等同項の作業に従事する労働者以外の者が当該機械を運転することを防止するための措置を講じなければならない。
つまり、単に機械を止めるだけでは足りません。停止した状態を、他人が誤って動かせないよう固定することまでが義務です。
手順(6ステップ)
手順とは、動力源の遮断から作業終了までを、抜け漏れなく行うための一連の段階を指す。
現場で広く使われている手順は、おおむね次の6段階に整理できます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 通知 | 作業内容と停止の対象を、関係者全員に伝える |
| 2. 機械の停止 | 通常の手順で機械を止める |
| 3. エネルギー源の遮断 | 電源・油圧・空気圧など全ての動力源を切る |
| 4. 施錠・表示 | 起動装置に個人の鍵をかけ、表示板を取り付ける |
| 5. 残留エネルギーの除去 | 蓄積した圧力や慣性を安全に逃がす |
| 6. ゼロエネルギーの確認 | 起動を試みて、機械が動かないことを確かめる |
このうち見落とされやすいのが5と6です。電源を切っても、油圧やばねに蓄えられたエネルギーが残っていれば、機械は動く可能性があります。施錠しただけで安心せず、実際に動かないことを確かめる工程が要ります。
手順を実行する担当も明確にしておく必要があります。施錠と解錠は、原則としてその作業を行う本人が行うものです。別の人が代わりに鍵を外すと、まだ作業中の人が気づかないまま機械が動き出す危険があります。
札だけでは止まらない理由
札だけでは止まらないとは、表示板の掲示だけに頼る運用では、誤操作を防ぎきれないことを指す。
安衛則107条は「錠を掛け、表示板を取り付ける等」と定めています。厚生労働省の留意事項資料では、表示板は脱落や見落としのおそれがあるため、施錠装置を併用することが望ましいとされています。
札は「見た人が気づいて手を止める」ことに依存した対策です。急いでいる、慣れている、他の作業に気を取られているといった状況では、見落とされます。施錠は「気づかなくても物理的に動かせない」状態をつくる点で、札より確実性が高くなります。
複数人作業でのキー管理
複数人作業でのキー管理とは、同じ機械に複数の作業者が同時に関わる場合に、全員が退場するまで運転を再開させない仕組みを指す。
一人で作業する場合は、自分の鍵を外せばそのまま起動可能な状態に戻ります。問題は複数人が同時に関わる場合です。
- 一人が作業を終えて鍵を外すと、まだ機械の中にいる別の作業者が危険にさらされる
- 誰の鍵が掛かっているか、その場にいる全員が把握できていない
この問題への対応として、複数の南京錠を同時に掛けられるハスプ(連結金具)を使う方法があります。作業者一人ひとりが自分の鍵を掛け、全員が作業を終えて鍵を外すまで、起動装置は動かせません。誰か一人が抜けても、残りの鍵が掛かっている限り機械は止まったままです。
短時間だからと省略する心理
短時間だからと省略する心理とは、数分で終わる作業では、施錠や表示の手間を惜しんで手順を飛ばしてしまう心の動きを指す。
長時間の修理作業では、施錠や表示にかかる数分は誤差の範囲です。一方、詰まった材料を取り除くだけといった数十秒の作業では、手順そのものが「作業より長い」と感じられます。
しかし、挟まれ・巻き込まれ災害の多くは、こうした短時間の作業中に起きています。厚生労働省の統計によると、令和6年の製造業における死亡災害のうち、はさまれ・巻き込まれが41人で最多でした。製造業の死亡災害は全体で142人です。はさまれ・巻き込まれは、そのおよそ3割にあたります(厚生労働省確定値、令和7年5月公表、別表3)。
休業4日以上の死傷災害でも、製造業では、はさまれ・巻き込まれが6,114人でした。事故の型別で最も多い型になっています(同資料、別表4)。「すぐ終わるから」という判断が積み重なった結果が、この数字に表れています。
こうした事故の多くは、機械の性能や設備の古さではなく、「今日だけは省略した」という一回の判断がきっかけになっています。手順を毎回繰り返し確認する仕組みが、対策の中心になります。
教育でどこを繰り返すか
教育でどこを繰り返すかとは、一度覚えれば終わりではなく、繰り返し確認しなければ抜けが生じる工程を指す。
ロックアウト・タグアウトの手順自体は、一度教えれば理解できます。問題は、忙しい当日にその手順を思い出し、実行できるかどうかです。
とくに繰り返し確認したいのは、残留エネルギーの除去とゼロエネルギーの確認です。この2つは省略しても、その場では何も起きないため、省略に気づきにくいという特徴があります。
安全ドリル+は、こうした「知っているが当日は忘れる」手順の定着に向いています。現場のQRを読むと、10秒の動画が5本流れ、危険を探して3択に答える形式です。停止措置の手順を、毎回の朝礼前に短く繰り返すことができます。最後の1問だけが氏名・所属会社つきの記名テストとして記録に残ります。
なお、ヒヤリハットの収集は姉妹アプリの安全ポスト+が担う。現場と組織の登録は2つのアプリで共有している。
なお本記事の内容は2026年8月時点で確認できる公開情報・法令に基づいています。個別の設備・手順への適用は、機械メーカーの取扱説明書や、労働基準監督署、専門家にご確認ください。
まとめ
- ロックアウト・タグアウトは海外由来の呼称ですが、日本では労働安全衛生規則第107条が実質的に同じ措置を義務づけています
- 機械停止時は、起動装置への施錠と表示板の取り付けが求められます。表示板だけでは不十分とされています
- 手順は通知・停止・遮断・施錠表示・残留エネルギー除去・ゼロエネルギー確認の6段階が目安です
- 複数人作業では、全員の鍵が外れるまで起動できない仕組み(ハスプの活用)が有効です
- 令和6年の製造業の死亡災害は、はさまれ・巻き込まれが最多で、全体のおよそ3割を占めています(厚生労働省確定値)
- 短時間作業ほど手順が省略されやすく、そこに事故が集中しています。教育では残留エネルギーの除去と確認を繰り返し扱うことが要点です
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よくある質問
Q. ロックアウトとタグアウトの違いは何ですか
ロックアウトは起動装置に物理的な錠をかけること、タグアウトは表示板で作業中であることを知らせることです。安衛則107条はこの両方を求めています。
Q. 表示板だけでは法令違反になりますか
条文上は「錠を掛け、表示板を取り付ける等」とされ、どちらか一方でも文言上は成立し得ます。ただし厚生労働省の留意事項資料は施錠装置の併用が望ましいとしており、表示板のみの運用は推奨されません。
Q. 短時間の作業でも毎回施錠が必要ですか
安衛則107条は作業時間の長短を区別していません。危険を及ぼすおそれがある限り、短時間でも運転停止と施錠等の措置が原則として必要です。
Q. 個人の鍵はどのように管理すればよいですか
一人一鍵を原則とし、他人に貸与しない運用が基本です。複数人作業では、全員の鍵を同時に掛けられるハスプを使うと、抜けが起きにくくなります。
Q. 覆いを設ければ運転停止を省略できますか
安衛則107条は、運転中に作業せざるを得ない場合に限り、危険な箇所への覆い設置等の措置で運転停止を省略できるとしています。停止できる作業であれば、停止が原則です。