「熱中症対策が義務化された」という話は耳にしていても、具体的に何をすればよいかまで把握している現場は多くありません。
労働安全衛生規則の一部を改正する省令は、令和7年4月15日に公布され、同年6月1日に施行されました。この改正で新設されたのが、安衛則第612条の2です。熱中症のおそれがある作業を行う事業者に、報告体制と重篤化防止措置の策定を義務づけました。出典は厚生労働省労働基準局長通達 基発0520第6号(令和7年5月20日)です。
この記事では、何が義務化され、現場は具体的に何を準備すればよいのかを、条文の内容に沿って整理します。
熱中症対策の義務は「体制を作って周知する」ところまでが法令の要求です。安全ドリル+なら、その周知を朝礼前の短い動画で毎日繰り返せます。
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何が義務化されたか
熱中症対策の義務化とは、改正安衛則が事業者に報告体制と重篤化防止措置の策定・周知を求めることを指す。令和7年6月1日に施行された。
新設された安衛則第612条の2は、大きく2つの義務で構成されています。
- 熱中症の自覚症状や疑いのある作業者を発見した者が、報告するための体制を事業場ごとにあらかじめ定め、周知すること
- 熱中症の重篤化を防止するための措置の内容と実施手順をあらかじめ定め、周知すること
これらは「熱中症を出さない」ための努力義務ではありません。「熱中症が起きたときに早く気づき、悪化させない」ための体制整備を求める規定です。違反した場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となり得ます(安全衛生情報センター掲載の通達解説等を確認。2026年時点)。
対象となる作業
対象となる作業とは、WBGT28以上または気温31度以上の環境での、連続1時間以上か1日4時間超の作業である。
この基準は業種を限定していません。建設業の屋外作業はもちろん、倉庫や工場内の高温になる工程、屋内でも空調のない作業場が対象になり得ます。判断の起点は「その日その作業が、この温度・時間の条件を満たすか」です。あらかじめ「うちの業種は対象外」と決めつけることはできません。
条件を満たすかどうかは、作業計画の段階で見込みを立てて判断します。天候や作業内容によって日々変わるため、毎日確認する運用が必要になります。
屋内の工場でも、炉や乾燥設備の近くなど局所的に高温になる工程は対象になり得ます。「屋外だから対象、屋内だから対象外」という単純な線引きはできません。工程ごとに気温や湿度の実態を把握しておく必要があります。
必要な体制
必要な体制とは、熱中症の自覚症状や疑いを発見した際の報告先と、発見後の措置手順を定め、全員に周知した状態である。
厚生労働省の通達は、報告体制の例を挙げています。電話等による報告、バディ制の採用、ウェアラブルデバイスによる労働者の状態把握などです。措置の内容としては、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の受診や搬送が求められます。
| 段階 | 事業場が定めておくこと |
|---|---|
| 発見 | 自覚症状・疑いのある人を見つけた際の報告先(担当者・電話番号) |
| 判断 | 誰が症状の程度を判断し、次の対応を決めるか |
| 初動 | 作業からの離脱、日陰への移動、身体の冷却の手順 |
| 搬送 | 医師の受診や救急搬送が必要かどうかの判断基準と連絡先 |
体制は「整備すること」だけでなく「周知すること」までがセットで義務化されています。掲示や書面を作るだけでなく、作業者が実際に報告先を答えられる状態にしておく必要があります。
体制を定める単位は「事業場ごと」です。元請と下請が混在する建設現場では、誰の体制に従って報告するのかが曖昧になりやすい点に注意が必要です。混在作業場所では、元請が体制を一本化し、関係者全員に周知する運用が現実的とされています。
WBGTの測り方と目安
WBGTとは、黒球温度・自然湿球温度・乾球温度の3つを組み合わせて算出する、熱中症予防のための指数である。
日本語では暑さ指数と呼ばれます。気温だけでなく湿度や輻射熱の影響も反映するため、体感に近い指標とされています。現場では黒球付きのWBGT測定器を用い、作業場所で直接測定します。今回の義務化における対象作業の判定基準は「WBGT28以上、または気温31度以上」です。いずれかを満たせば、連続1時間以上・1日4時間超の作業が対象になります。
測定器を常設できない現場では、作業前に測定して記録します。条件を満たす日は、事前に定めた体制と手順を作業者に確認してから作業に入る、という運用が現実的です。
気温だけを見ていると、湿度が高く輻射熱の強い日にWBGTが先に基準を超えていることに気づけません。逆に、気温が高くても乾燥した日はWBGTが基準に届かないこともあります。気温とWBGTの両方を確認する習慣が、判断のずれを防ぎます。
安全ドリル+のような朝礼前の短い動画教材は、この「今日は対象になる日か」という確認に使えます。口頭連絡だけに頼らず、全員に届ける手段になります。当日の工種に合わせた動画に、その日のWBGTと報告先を含めることもできます。
教育として何を伝えるか
教育として伝えるべき内容とは、報告体制の連絡先、初期症状の見分け方、発見時に自分がとるべき行動の3点である。
法令が求めているのは体制の整備と周知であり、周知は掲示だけでは不十分です。作業者が「自分や周りの誰かに症状が出たとき、誰にどう連絡するか」を即答できることが、周知が機能している状態です。
- 報告先(担当者名・連絡手段)を全員が言えるか
- めまい・頭痛・大量の発汗といった初期症状を、自分の言葉で説明できるか
- 発見した場合、まず何をするか(涼しい場所への移動、水分補給、報告)を知っているか
これらは一度の講習で定着するものではなく、暑熱期の間、繰り返し確認する必要がある内容です。
初期症状は本人が「たいしたことはない」と過小評価しやすいという特徴があります。周囲が先に異変に気づき、声をかける役割を担うことも、教育で伝えるべき内容に含まれます。
記録に残すもの
記録に残すべきものとは、体制を周知した事実と、実際に熱中症のおそれがある事案が発生した際の対応記録の2種類である。
前者は、いつ・誰に・どのような方法で周知したかを示す記録です。朝礼での説明であれば実施日と対象者、資料配布であれば配布日と対象者を残しておくと、周知義務を果たした証跡になります。
後者は、実際に自覚症状や疑いのある作業者が出た場合の対応記録です。発見時刻、報告を受けた担当者、とった措置、その後の経過を記録しておくと、体制が実際に機能したかどうかを事後に検証できます。
記録が積み上がると、どの工程・どの時間帯に事案が集中しているかが見えてきます。体制を作って終わりにせず、記録を見直して手順を更新する運用にしておくと、暑熱期を重ねるごとに実効性が高まります。
初動を全員が言えるようにする
初動を全員が言えるようにするとは、熱中症のおそれを発見した際、誰でも最初の数手を迷わず行動できる状態を指す。
体制を紙で整備しても、暑さで判断力が落ちた状況で報告先を思い出せなければ機能しません。朝礼のたびに報告先と初動を短く復唱する方法があります。短い動画で毎日繰り返し確認する方法も、実際の場面での行動につながります。
暑熱期は現場の作業員が日によって入れ替わることも多く、一度伝えただけでは全員に行き渡りません。毎日のKYや朝礼の中に、報告体制の確認を組み込んでおくことが実務上の対応になります。
本記事は2026年8月時点で確認できる公表情報にもとづく一般的な解説です。個別の現場での対応可否は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士など専門家にご確認ください。
| 課題 | 関連サービス |
|---|---|
| 熱中症のリスクを現場ごとに可視化したい | AnzenAI(https://anzen-ai.com) |
| 熱中症のヒヤリハットを掲示・収集したい | 安全ポスト+(https://anzenpost.com) |
| 発生した事案の原因を分析したい | WhyTrace Plus(https://whytrace.com) |
まとめ
- 令和7年6月1日施行の安衛則第612条の2で、報告体制と防止措置の周知が義務化(厚生労働省 基発0520第6号)
- 対象は業種を問わず、WBGT28以上または気温31度以上で連続1時間以上・1日4時間超の作業が見込まれる場合です
- 求められる体制は「発見」「判断」「初動」「搬送」の4段階を、あらかじめ定めて周知しておくことです
- 周知は掲示だけでなく、作業者が報告先と初動を答えられる状態まで含みます
- 記録は周知した事実と、実際の対応記録の2種類を残しておくと、体制が機能したかを事後に検証できます
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よくある質問
Q. 熱中症対策の義務化はいつから始まりましたか
令和7年4月15日に改正省令が公布され、同年6月1日に施行されました(厚生労働省 基発0520第6号)。
Q. 対象業種は建設業だけですか
業種は限定されていません。WBGT28以上または気温31度以上で、連続1時間以上・1日4時間超の作業が見込まれる場合は、業種を問わず対象になります。
Q. WBGTを測定する義務はありますか
今回の改正は体制整備と周知を義務づけるものであり、測定器の設置そのものを直接義務づける条文ではありません。ただし対象作業かどうかを判断するには、実測または信頼できる予測値の確認が必要になります。
Q. 違反した場合の罰則はありますか
体制の未整備等が確認された場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となり得ます。詳細は所轄の労働基準監督署にご確認ください。
Q. 小規模な現場でも対応が必要ですか
規模による適用除外はありません。人数の少ない現場でも、報告先と初動手順をあらかじめ定めて周知しておく必要があります。