「うちの現場は足場が低いから、特別教育は関係ない」。元請の安全衛生責任者からこの言葉を聞くことがあります。しかし条文を確認すると、この理解は誤りです。足場の組立て等特別教育に高さの条件は書かれていません。
この記事では、条文にもとづいて対象範囲を確認したうえで、学科教育の科目・時間数、作業主任者との違い、受講記録の残し方までを整理します。
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足場の組立て等特別教育とは
足場の組立て等特別教育とは、足場の組立て・解体・変更の作業に労働者を就かせる前に、事業者が実施する義務を負う教育のことです。
根拠は労働安全衛生規則第36条第39号です。同号は「足場の組立て、解体又は変更の作業に係る業務(地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く。)」を特別教育の対象業務として定めています。平成27年厚生労働省令第46号による改正で追加され、平成27年7月1日に施行されました(厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の概要」)。
条文を読むと分かるとおり、対象を限定しているのは「地上又は堅固な床上における補助作業かどうか」という作業内容であり、足場の高さではありません。資材の受け渡しなど地上での補助作業を除き、足場に上がって組立て・解体・変更を行う業務であれば、原則としてすべて対象になります。
「5m未満は対象外」という誤解を条文で潰す
「高さ5メートル未満は対象外」という誤解は、別の制度である足場の組立て等作業主任者の選任要件と混同して生まれています。
労働安全衛生法施行令第6条第15号は、つり足場(ゴンドラのつり足場を除く)、張出し足場、または高さが5メートル以上の構造の足場の組立て・解体・変更の作業について、技能講習を修了した者から作業主任者を選任することを義務づけています。この「5メートル以上」という条件があるのは作業主任者の選任義務のほうであり、特別教育の受講義務ではありません。
つまり、現場には次の2つの義務が別々に存在します。
- 特別教育(安衛則第36条第39号):高さを問わず、足場の組立て・解体・変更の作業に就く全員が対象
- 作業主任者の選任(安衛法施行令第6条第15号):つり足場・張出し足場、または高さ5メートル以上の足場でのみ必要
高さ5メートル未満の足場しか扱わない現場でも、作業主任者の選任義務がないだけで、作業に就く労働者への特別教育は必要です。この切り分けを誤ると、「うちは対象外」という判断のまま無資格者を足場に上げ続けることになります。
対象になる業務・ならない業務
対象になる業務とならない業務を整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 該当例 |
|---|---|
| 対象になる | くさび緊結式・枠組・単管足場の組立て、解体、変更作業。登り桟橋・朝顔の組立て等 |
| 対象になる | 高さ1〜2メートル程度の低い足場での組立て・解体作業 |
| 対象にならない | 地上で足場材料を運搬・受け渡しするだけの補助作業 |
| 対象にならない | 堅固な床上(建物の床など)での補助作業 |
判断に迷いやすいのは、脚立や可搬式作業台のような足場以外の設備です。これらは労働安全衛生規則第36条第39号の対象外ですが、別の特別教育(高所作業車など)が必要になる場合があるため、使用する設備ごとに根拠条文を確認する必要があります。
学科教育の科目と時間数
足場の組立て等特別教育は学科教育のみで構成され、実技教育はありません。建設業労働災害防止協会が公表しているカリキュラムは次のとおりです(中央労働災害防止協会・建設業労働災害防止協会の資料に基づく)。
| 科目 | 範囲 | 時間 |
|---|---|---|
| 足場及び作業の方法に関する知識 | 足場の種類・材料・構造・組立図、組立て等の作業方法、点検・補修、登り桟橋・朝顔の構造と作業方法 | 3時間 |
| 工事用設備、機械、器具、作業環境等に関する知識 | 工事用設備・機械の取扱い、器具・工具、悪天候時の作業方法 | 30分 |
| 労働災害の防止に関する知識 | 墜落防止のための設備、落下物による危険防止措置、保護具の使用・保守点検方法、感電防止措置 | 1時間30分 |
| 関係法令 | 法・令・安衛則中の関係条項 | 1時間 |
| 計 | 6時間 |
平成27年7月1日の施行時点ですでに足場の組立て等の業務に従事していた者に限り、学科3時間への短縮教育が認められていました。これは施行時の経過措置であり、現在新たに足場の業務に就く労働者は6時間の受講が必要です。
次のいずれかに該当する者は、科目の全部を省略できます。
- 足場の組立て等作業主任者技能講習を修了した者
- とびに係る1級または2級の技能検定に合格した者
- とび科の職業訓練指導員免許を受けた者
- 足場の組立て等作業主任者技能講習規程(昭和47年労働省告示第109号)第1条各号に掲げる訓練を修了した者
現場でよくある誤りは、「とびの経験が長いから省略でよい」という自己判断です。省略できるのは上記の資格・修了要件を満たす者に限られ、経験年数だけでは省略の根拉になりません。
未実施が発覚するとどうなるか
特別教育を実施せず対象業務に就かせた場合、労働安全衛生法第119条の対象になります。罰則は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金です。
未実施が発覚するのは、多くの場合、労働災害が発生した後です。足場からの墜落・転落は、建設業の死亡災害の中でも比重の大きい型です。厚生労働省が公表した令和6年の労働災害発生状況(確定値)によると、建設業の死亡者数は232人で、全産業の31.1%を占め全業種中最多でした。このうち事故の型別でみると墜落・転落による死亡者は77人で、建設業の死亡者のおよそ3割にあたります(厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」、2025年5月付・確定値)。
足場からの災害に限った内訳では、足場からの墜落・転落は建設業の死傷災害全体の約15%、死亡災害の約18%を占めるとされています(一般財団法人中小建設業特別教育協会の資料より)。特別教育の未実施は、事故が起きて初めて労働基準監督署に指摘される性質のものです。平時のうちに受講記録を整えておくことが、唯一の予防策になります。
受講記録の残し方(保存年限と記載事項)
労働安全衛生規則第38条は、特別教育を行ったとき、科目等の記録を作成し、これを3年間保存しなければならないと定めています。記録に含めるべき事項は、実施年月日、教育内容(科目)、講師の氏名、受講者の氏名です。
社内実施の場合、修了証の交付義務は法令上ありませんが、次の3点を記録として残しておくと、後から証明を求められたときに説得力が高まります。
- 受講者ごとの氏名・所属会社・受講日
- 実施した科目と時間数(省略した場合はその根拠資格)
- 講師の氏名と、講師が要件を満たすことの根拠(保有資格・経験年数など)
3年は法令上の最低ラインです。労働災害による損害賠償請求権の消滅時効は原則5年(生命・身体の侵害は20年)に及ぶため、実務では3年を超えて保存する運用も検討する価値があります。
毎日の注意喚起で教育の効果を続かせる
足場の組立て等特別教育は、対象業務に就く前に一度実施すれば法令上の要件を満たします。しかし、教育を受けた直後の緊張感がそのまま続くとは限りません。組立て手順に慣れた頃や、久しぶりに変更作業を行う日ほど、手順の抜けが起きやすくなります。
ここを補うのが、毎日のKY活動や朝礼での短い注意喚起です。特別教育で学んだ墜落防止設備の使い方や点検項目を、その日の作業に合わせて思い出させる仕組みがあると、教育の効果が長く続きやすくなります。
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本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、専門家または所轄の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- 足場の組立て等特別教育(安衛則第36条第39号)に高さの条件はなく、地上・堅固な床上の補助作業を除きすべて対象です
- 「高さ5メートル以上」は作業主任者の選任義務(安衛法施行令第6条第15号)の条件で、特別教育とは別の制度です
- 学科教育は計6時間、科目は「足場及び作業の方法」「工事用設備等」「労働災害の防止」「関係法令」の4科目です
- とび1級・2級の技能検定合格者など一定の資格保有者は科目の全部を省略できますが、経験年数だけでは省略の根拠になりません
- 受講記録は安衛則第38条により3年間保存が必要です。実施年月日・科目・受講者氏名・講師氏名を残します
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よくある質問
Q. 高さ1メートル程度の足場でも特別教育は必要ですか。
必要です。労働安全衛生規則第36条第39号に高さの条件はなく、地上または堅固な床上における補助作業を除き、足場の組立て・解体・変更に係る業務であれば高さを問わず対象になります。
Q. 足場の組立て等作業主任者の資格があれば特別教育は不要ですか。
不要です。足場の組立て等作業主任者技能講習を修了した者は、特別教育の科目の全部を省略できます。とびの1級・2級技能検定合格者なども同様です。
Q. 特別教育を社内で実施する場合、講師に資格は必要ですか。
法令は講師の資格を具体的には定めていません。対象業務について十分な知識・経験を持つ者が担当することが前提です。社内に適任者がいない場合は、建設業労働災害防止協会などの外部機関に委託する方法もあります。
Q. 受講記録に決まった様式はありますか。
法令上、様式の指定はありません。ただし実施年月日・教育内容(科目)・講師の氏名・受講者の氏名は、安衛則第38条が求める記載事項として必ず残す必要があります。
Q. パートやアルバイトなど短期の作業員も対象になりますか。
雇用形態は問いません。足場の組立て・解体・変更の作業に就かせる労働者であれば、雇用期間の長短や雇用形態にかかわらず特別教育の対象になります。