「墜落・転落が多いのは分かっている。でも、何から手をつければいいのか分からない」。建設業の安全担当者から、こうした声をよく聞きます。
対策の優先順位は、感覚ではなく数字で決めるべきです。厚生労働省は毎年、労働災害発生状況を公表しており、業種別・型別の内訳から、どこに手を打つべきかが見えてきます。
この記事では、最新の統計をもとに建設業の死亡災害の実態を整理し、優先すべき対策を検討します。
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最新統計の全体像
労働災害発生状況とは、厚生労働省が労働基準監督署を通じて集計する、全国の労働災害の公式統計のことである。
厚生労働省は2026年5月27日、令和7年(2025年)の労働災害発生状況(確定値)を公表した。労働災害による死亡者数は700人で、前年比46人・6.2%減、過去最少となった。
業種別の死亡者数は、建設業が214人で最も多い。前年比では18人・7.8%減っている。次いで製造業115人、陸上貨物運送事業80人と続く。出典は厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」(2026年5月27日)である。
死亡者数が減少しても、建設業は依然として全産業の中で最も死亡者の多い業種である。休業4日以上の死傷者数は全産業で135,333人、前年比0.3%減とほぼ横ばいだった。死亡災害は減っているが、休業を伴う災害全体はまだ減り切っていない。
死亡災害の型別内訳
死亡災害の型別内訳とは、転落・転倒・はさまれなど、災害がどのような事故の形で起きたかを分類したものである。
令和7年の全産業の型別では、墜落・転落が186人と最多である。次いで交通事故(道路)126人、はさまれ・巻き込まれ117人の順に続く。
| 事故の型 | 死亡者数(全産業・令和7年) | 前年比 |
|---|---|---|
| 墜落・転落 | 186人 | 1.1%減 |
| 交通事故(道路) | 126人 | 2.4%増 |
| はさまれ・巻き込まれ | 117人 | 6.4%増 |
建設業に限った速報値では、令和7年1月から9月末までの死亡件数は全国156件だった。うち墜落・転落が65件で、約36%を占めている。崩壊・倒壊、はさまれ・巻き込まれ、激突されが、それぞれ14〜16件で続く。出典は厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の死亡災害報告速報値である。
建設業では、墜落・転落が単独の型として突出している。全産業では交通事故やはさまれが肉薄しているのに対し、建設業は高所作業という業種特性がそのまま数字に表れている。
減っていない型はどれか
減っていない型とは、前年比で増加、または横ばいが続いている事故の型のことである。
全産業の死亡災害でみると、交通事故(道路)とはさまれ・巻き込まれは前年比で増加した。墜落・転落は減少しているものの、減少幅は1.1%とわずかにとどまる。
休業4日以上の死傷災害では、傾向がさらにはっきりする。転倒が37,195人と全型の中で最多になり、前年比2.2%増加した。墜落・転落も20,864人で前年比0.8%増である(出典:厚生労働省、前掲)。
死亡災害では墜落・転落が最多であり続け、死傷災害全体では転倒が最多に躍り出ている。この2つの型は、規模の大小を問わず対策の優先度が下がらない事故として捉える必要がある。
年齢構成の影響
年齢構成の影響とは、高年齢労働者の比率が高まるほど、労働災害の発生率も高まる傾向のことである。
全産業でみると、60歳以上の労働者が休業4日以上の死傷者に占める割合は、令和6年時点で約3割に達している。60歳代以上の死傷年千人率は4.00である。一方、雇用者全体に占める60歳以上の割合は19.1%にとどまる。出典は厚生労働省の労働災害発生状況の分析等である。
雇用に占める比率より、災害に占める比率のほうが明らかに高い。高年齢労働者の絶対数が増えている以上、この差は今後さらに意識する必要がある。
建設業の死亡災害速報値でも、年代別の内訳は50歳以上に厚みがある。令和7年1月から9月末の集計では、年代別の上位は次の通りである。
- 50〜54歳:23人
- 60〜64歳:21人
- 55〜59歳・70〜74歳:各18人
出典は厚生労働省の死亡災害報告速報値をもとにした集計である。
体力の低下だけでなく、慣れによる注意力の低下も要因として指摘される。長年の経験があるからこそ、基本動作を省略してしまう場面がある。
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小規模現場に偏る理由
小規模現場に偏る理由とは、専任の安全担当者を置きにくく、元請の管理の目が届きにくい構造のことである。
建設業は重層下請構造が一般的で、二次・三次下請の作業員が現場に混在する。元請が現場全体の安全管理を統括していても、末端の作業員一人ひとりの教育状況までは把握しにくい。
小規模な事業者ほど、次の制約を抱えやすい。
- 安全専任の担当者を置く余裕がない
- 現場ごとに作業員が入れ替わり、教育が継続しにくい
- 記録を残す仕組みが紙や口頭にとどまる
これらは統計上の数字そのものではない。ただし重層下請構造という業界特有の要因が、小規模事業者ほど安全管理の体制を薄くしやすい背景にある。
元請にとっての課題は、下請の教育状況をどう把握するかである。工事現場に立ち会う時間には限りがあり、下請の教育内容を逐一確認するのは現実的ではない。教育の実施と記録が同じ動作で完結する仕組みがあれば、元請が確認する負担も軽くなる。
統計から導く優先順位
統計から導く優先順位とは、死亡災害の最多要因と、死傷災害全体の最多要因の両方を押さえる考え方のことである。
死亡災害を減らすには、墜落・転落への対策が最優先になる。開口部の養生、足場の手すり、墜落制止用器具の適切な使用は、引き続き徹底が必要な項目である。
一方、死傷災害全体を減らすには、転倒対策の比重を上げる必要がある。転倒は死亡には至りにくいが、休業日数が長引きやすく、件数としては最も多い型になっている。
墜落・転落と転倒は、対策の性質が異なる。墜落・転落は設備面の対策が主軸になりやすい。一方、転倒は通路の整理整頓や足元の注意喚起など、日々の行動に左右される部分が大きい。設備投資だけでは埋まらない領域である。
教育の頻度と災害率
教育の頻度と災害率とは、教育を一度きりで終えるか日々繰り返すかで、現場の危険への感度が変わるという関係のことである。
新規入場者教育は、現場に入る前の節目の教育として重要な位置づけを持つ。現場では、入場から短期間のうちに被災する例が多いといわれており、国土交通省も新規入場者教育の徹底を呼びかけている。
ただし、節目の教育だけでは、工程の進行にともなって変わる日々の危険源をカバーしきれない。統計が示す墜落・転落や転倒は、特別な作業ではなく日常的な作業の中で起きている。だからこそ、毎日の短い教育で注意を更新し続ける仕組みが要る。
| サービス | 役割 |
|---|---|
| 安全ドリル+ | 毎日の教育と記名テストの記録(anzendrill.com) |
| 安全ポスト+ | 現場のヒヤリハット・危険箇所の掲示と共有(GenbaSafeAI) |
| AnzenAI | 現場の安全確認・チェックの自動化(anzen-ai.com) |
| WhyTrace Plus | 災害・ヒヤリハットのなぜなぜ分析(whytrace.com) |
統計を毎日の題材に変えるところは、毎日のKY活動を記録に変えるで整理している。
まとめ
- 令和7年の労働災害による死亡者数は700人で過去最少。建設業は214人で全産業最多である
- 死亡災害の型は墜落・転落が最多。建設業の速報値では死亡災害の約36%を占める
- 死傷災害全体では転倒が最多に躍り出ており、前年比でも増加している
- 60歳以上の労働者は、雇用に占める比率より労働災害に占める比率のほうが高い
- 節目の教育に加え、日々の短い教育で注意を更新し続ける仕組みが、統計の示す優先順位に応える手段になる
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よくある質問
Q. 労働災害発生状況の統計はどこで確認できますか。
厚生労働省が毎年公表しています。確定値は例年5月ごろに公表され、厚生労働省の報道発表資料や「職場のあんぜんサイト」で確認できます。
Q. 建設業の死亡災害はなぜ墜落・転落が多いのですか。
高所での作業が構造的に多いことが背景にあります。足場や開口部、屋根、脚立など、複数の作業段階で墜落のリスクが発生します。
Q. 死亡災害は減っているのに、なぜ対策の手を緩めるべきではないのですか。
死亡者数は減少傾向にありますが、休業4日以上の死傷者数はほぼ横ばいです。とくに転倒は前年より増加しており、災害全体が減っているとは言い切れません。
Q. 高年齢労働者への対策として、まず何をすべきですか。
作業内容の見直しや設備面の対策に加え、基本動作の再確認を日常的な教育に組み込むことが有効とされています。慣れによる省略が起きやすい部分を、繰り返し確認する仕組みが求められます。