同じ高さから落ちても、同じ段差でつまずいても、休業する期間は人によって大きく違う。20代なら数日で現場に戻れる転倒が、60代では骨折を伴い、数か月の休業につながることがある。
高年齢の作業員が増えている現場ほど、この「同じ災害でも重さが違う」という現実に向き合う必要がある。年齢だけを理由に配置を制限することは難しいが、身体機能の変化を前提にした現場づくりは、今からでも始められる。
この記事では、高年齢労働者の災害がなぜ重篤化しやすいのか、配置と作業内容の見直しでどこまで対応できるのかを整理する。
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高年齢労働者の災害の特徴(転倒・墜落の重篤化)
高年齢労働者の災害の最大の特徴は、発生件数そのものよりも、休業に至る期間の長さにある。
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署が公表する資料がある。それによると、労働災害による休業見込み期間が1か月以上に及ぶ割合は、令和5年時点で60〜69歳が59.4%、70歳以上が67.1%に達している(出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」)。同じ資料が示す休業4日以上の死傷者数についても、年齢が上がるほど死傷年千人率(一定の労働時間あたりの発生率の指標)が高くなる傾向が見て取れる。
この傾向が示すのは、高年齢労働者が特別に不注意だということではない。転倒や墜落そのものは若年層にも起きるが、骨や筋肉の回復力の違いが、同じ災害の結果を左右している。同じ高さからの墜落でも、若年層であれば打撲で済む衝撃が、高年齢労働者では骨折に至り、そこから長期の休業や、場合によっては元の作業に戻れないまま退職に至ることもある。現場での対策を考えるうえでは、「起きないようにする」対策と、「起きても軽くする」対策の両方が要る。
身体機能の変化と現場の設備
身体機能の変化とは、加齢に伴って生じる、視力・聴力・筋力・バランス感覚などの低下を指す。
暗い場所での見えにくさ、警報音の聞き取りにくさ、段差での踏ん張りのきかなさは、本人が自覚する前から少しずつ進行する。若い頃と同じ感覚で作業していても、実際の反応速度や踏ん張る力は落ちている、という状態が起こりうる。
現場の設備側でできる対応も少なくない。同じガイドラインには、通路や作業場所の照度確保、警報音を聞き取りやすい中低音域への変更、水分や油分のこまめな清掃、階段の手すり、防滑靴の用意といった対策例が示されている。いずれも高年齢労働者に限らず現場全体の安全性を底上げする対策であり、特別な投資を伴わずに始められるものも多い。
不自然な作業姿勢をなくすために作業台の高さや作業対象物の配置を見直す、解消できない危険箇所には標識で注意を促す、といった対策例も挙げられている。一つひとつは小さな改善だが、身体機能が低下した状態でも同じ動作を安全に行えるようにする、という発想で積み重ねる点が共通している。
配置で減らせるもの、減らせないもの
配置の見直しで減らせるのは、身体機能の低下が直結する作業への従事機会である。高所での不安定な姿勢、重量物の単独運搬、瞬発的な判断を要する重機周辺の作業などは、配置替えによってリスクそのものを避けられる。
一方で、配置だけでは解決できない問題もある。経験と技能を評価されて呼ばれる高年齢の職人は、危険な作業ほど「自分にしかできない」という意識で引き受けてしまうことがある。配置転換を提案しても、本人がそれを望まないケースは珍しくない。この場合、作業そのものを配置で避けるのではなく、作業内容や手順を見直して負担を減らす方向で調整する必要がある。たとえば、同じ高所作業でも、足場や補助具を追加して不安定な姿勢を減らす、作業時間を区切って休憩を挟む、といった工夫は配置を変えずに実施できる。
エイジフレンドリーガイドラインの要点
エイジフレンドリーガイドラインとは、厚生労働省が令和2年3月16日付け基発0316第1号で策定した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の通称である。事業者に求める取組みを、安全衛生管理体制の確立・職場環境の改善・健康や体力の状況の把握・状況に応じた対応・安全衛生教育の5つの柱で整理している(出典:前掲エイジフレンドリーガイドライン)。
このうち安全衛生教育の項目では、高年齢労働者向けの教育について「時間をかけ、写真や図、映像等の文字以外の情報も活用する」ことが望ましいとされている。文字を読むことに時間がかかる、あるいは細かい文字が見えにくいという身体機能の変化を前提にした記載である。ガイドラインはチェックリスト「エイジアクション100」も用意しており、事業場の実情に応じた優先順位づけの参考にできる。
なお本ガイドラインは、雇用される高年齢労働者を主な対象としているが、請負契約により就業する高年齢者を使用する事業者に対しても、参考として取り組むことを求めている。建設現場のように一人親方や協力会社の職人が混在する環境でも、考え方自体は等しく当てはまる。
本人が言い出せない問題
本人が言い出せない問題とは、体力や体調の変化を自覚していても、それを職長や周囲に伝えられない心理的な壁を指す。
「歳のせいで作業が遅くなった」と言われることを恐れ、無理をして以前と同じペースを保とうとする作業員は少なくない。長年その現場で評価されてきた人ほど、この傾向は強く出やすい。長年その現場で信頼を積み上げてきた職人ほど、体力の衰えを認めることが自分の価値を下げるように感じてしまう。この心理は、周囲が「大丈夫か」と聞くだけでは解消しない。
対応として有効なのは、体力チェックや健康確認を特定の個人への指摘ではなく、現場全体の仕組みとして位置づけることである。全員が同じ手順で体調を確認する運用にしておけば、高年齢労働者だけが特別扱いされている印象を避けられる。ガイドラインも、体力チェックの実施にあたっては目的を分かりやすく丁寧に説明し、労働者から理解を得られるよう進めることを求めている。
職長の側にも留意点がある。「無理しなくていいから」という声かけは、善意であっても、本人の受け取り方によっては役割を奪われたと感じさせることがある。体調確認は「できるかどうか」を判定する場ではなく、「その日の作業をどう組み立てるか」を一緒に考える場だという位置づけを、日頃から共有しておくことが望ましい。
日々の体調確認の仕組み
日々の体調確認の仕組みとは、朝の時点で本人の状態を把握し、その日の作業配置に反映させる日常的な運用を指す。
体力チェックのような月次・年次の取組みだけでは、当日の体調の波までは捉えられない。前日の疲労が抜けていない、暑さで睡眠が浅かったといった変化は、毎朝の短いやり取りの中でしか拾えない。朝礼での一言確認や、作業前の簡単な問いかけを型として決めておくことが、体調確認を継続させる土台になる。
体調確認と合わせて、現場固有の危険箇所を毎日思い出させる仕組みも効果を持つ。文字を読み込む負担が少ない映像教材であれば、高年齢労働者にも若手にも同じ情報を短時間で届けられる。安全ドリル+は、当日の工種に応じた10秒動画を朝礼前に流し、最後に記名テストで実施記録を残す設計にしている。
高年齢労働者の転倒災害への対策は、転倒災害はなぜ労働災害トップなのかでも整理している。日々の教育を記録として積み上げる基本的な考え方は毎日のKY活動を記録に変えるを参照してほしい。
本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士等の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- 高年齢労働者の災害は、発生件数より休業期間の長さに特徴があり、令和5年時点で60〜69歳の59.4%、70歳以上の67.1%が休業1か月以上に至っている
- 視力・聴力・筋力・バランス感覚の低下は、照度・警報音・清掃・手すり・防滑靴など設備側の対応で一定程度補える
- 配置転換だけでなく、作業内容や手順の見直しで負担を減らす選択肢もある
- エイジフレンドリーガイドラインは5つの柱を示し、教育では文字以外の情報活用を求めている
- 体力の衰えを本人が言い出せない心理には、個人への指摘ではなく仕組みとしての体調確認で対応する
- 日々の体調確認と教育を型にしておくことが、当日の変化を拾う土台になる
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よくある質問
Q. 高年齢という理由だけで配置を制限してよいですか
年齢のみを理由にした一律の配置制限は、本人の意欲や技能を無視することになりかねない。ガイドラインも、就業上の措置を実施する場合は本人に状況を確認し、十分な話し合いを通じて了解を得るよう努めることを求めている。
Q. 60歳未満の作業員にはこの対策は不要ですか
身体機能の変化には個人差があり、年齢だけで一律に線引きできるものではない。ガイドラインが示す設備面の対策の多くは、年齢を問わず現場全体の安全性を高める効果を持つ。
Q. 体力チェックの結果を、配置の判断にそのまま使ってよいですか
体力チェックの結果を理由にした不利益な取扱いを防ぐため、労働者本人の同意の取得方法や情報の取扱い方法について、安全衛生委員会等の場で事業場内手続をあらかじめ定めておく必要がある。