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外国人労働者が増えた現場の安全教育|やさしい日本語と多言語

約7分で読めます 安全ドリル+編集部
外国人 安全教育やさしい日本語多言語 安全教育建設業現場運用
共通の現場で起きる熱中症の場面(安全ドリル+の教材より)
安全ドリル+の教材より

外国人労働者向けの安全教育教材を作る手順を整理。やさしい日本語の原則、絵での提示、多言語化の線引き、理解確認の方法まで解説します。

技能実習生や特定技能の在留資格ごとの制度は別記事で扱った。本稿は在留資格を問わず、安全教育の教材そのものをどう作るかに絞って整理する。制度上の義務を満たしていても、教材が伝わっていなければ意味がない、という視点である。国籍や在留資格が混在する現場ほど、この視点の欠落が事故につながりやすい。

「日本語が読める前提」で作った教材を、そのまま外国人労働者にも配っている現場は少なくない。教材を作り直すのではなく、既存の教材を少し手直しするだけで理解度は大きく変わる。ゼロから作り直す必要はなく、既存の教材に手を加える発想で十分である。

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「日本語が読める前提」が崩れている

現場の安全教材の多くは、漢字交じりの長い文章で書かれている。日本語を母語としない作業員にとって、この前提そのものが理解の壁になる。日本人の作業員向けに作った教材を、翻訳もせずそのまま配って「教育を実施した」ことにしている現場も見受けられる。

在留資格別の教育義務や実習制度の違いにかかわらず、教材の文章が難しければ理解は進まない。まず手を付けるべきは制度の話ではなく、教材の文章そのものである。制度への対応を先に整えても、教材が伝わらなければ実質的な教育にはならない。

現場でよくある誤解は、「片言でも日本語で会話ができるなら、教材の文章も理解できるはずだ」という思い込みである。日常会話の日本語と、安全教材に出てくる専門用語・複合的な文構造は、必要とされる語彙も文法の複雑さもまったく異なる。会話ができることと、教材の文章を読解できることは別の能力として扱う必要がある。

日本語能力試験の級を目安に教材の難度を判断しようとする現場もあるが、試験の級は読解力の1つの目安にすぎず、専門用語をどれだけ知っているかとは別の尺度である。試験の級が高くても、建設現場特有の言い回しは初めて聞くという作業員は珍しくない。級の高さに安心せず、教材そのものの伝わりやすさを別途確認する姿勢が要る。同じ級でも、来日してからの期間や現場経験の長さによって理解できる語彙は大きく変わる。

やさしい日本語の3原則

出入国在留管理庁と文化庁は2020年8月、「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を公開した(出典:出入国在留管理庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」)。このガイドラインは、書き言葉をやさしくする手順として3つの段階を示している。

  1. 情報を「取捨選択」し、本当に必要なことだけに絞る
  2. 「文の構造を単純化」し、一文を短く、主語と述語の対応を明確にする
  3. 「わかりやすい語彙」に置き換え、漢字語や専門用語を平易な言葉に直す

2023年1月には、話し言葉向けに「話し言葉のポイント」という続編も公開されている。安全教材の音声・動画部分を作る際は、この話し言葉版の観点も合わせて確認しておきたい。

建設現場の教材に当てはめると、「墜落制止用器具を着用すること」は「安全ベルトをつけること」、「立入禁止措置を講じること」は「ここに入らないこと」のように置き換えられる。専門用語を残したまま説明を加えるより、言葉そのものを平易にする方が理解は早い。

3原則を実際に教材へ適用する順番も重要である。まず情報の取捨選択で「本当に伝えるべき1つのこと」を決め、そのあとで文の構造と語彙を整える。順番を逆にして先に語彙だけを平易にしても、伝える情報量が多いままでは結局理解されない。1つの教材で伝える内容を1つに絞る、という制約が、やさしい日本語の効果を引き出す前提になる。

既存の教材を作り直す場合、まず一文の長さを数えるところから始めるとよい。1つの文に複数の内容が詰め込まれていないか、主語が途中で入れ替わっていないかを確認するだけでも、書き直すべき箇所が具体的に見えてくる。文章全体を一から書くより、既存の文を分解して短くする作業のほうが、実際の手直しでは負担が少ない。

文字を減らして絵で示す

やさしい日本語で文章を整えても、文字である以上は識字レベルに理解が左右される。文字を最小限にし、絵や写真で状況を示す教材にすると、日本語の習熟度に関わらず伝わる情報が増える。

効果的なのは、「してよいこと」と「してはいけないこと」を対比させる絵である。正しい装備の写真と、装備が崩れた状態の写真を並べるだけで、文章による説明を大幅に減らせる。動画教材であれば、正しい動作と危険な動作を短く連続して見せる構成が、文字を読ませるより理解が速い。

絵や写真で示す際は、日本特有の記号や慣習に頼りすぎないことにも注意が要る。たとえば立入禁止を示す黄色と黒のトラ柄は国際的にもある程度通用するが、日本語の注意書きが小さく添えられているだけの標識は、文字が読めない前提では意味を持たない。絵そのもので状況が伝わるかどうかを、文字を隠した状態で確認してみるとよい。

多言語化はどこまで必要か

現場に多国籍の作業員がいる場合、すべての言語に翻訳しようとすると教材の作成・更新の負担が際限なく増える。多言語化とやさしい日本語は、どちらか一方を選ぶものではなく、役割を分けて併用するのが現実的である。

やさしい日本語は、多言語翻訳が用意できない言語の作業員にも一定の理解を届けられる「土台」として機能する。母国語での多言語化は、その土台の上に、人数の多い言語から優先して重ねていく。全言語を最初からそろえようとせず、まずやさしい日本語の教材を整えることが先である。

翻訳を外部に発注する場合、専門用語の訳語が翻訳者によってばらつくという問題も起きやすい。同じ「墜落制止用器具」という言葉が、教材によって違う訳語で書かれていると、作業員側は同じものを指しているとは気づけない。複数の教材を作る場合は、専門用語の訳語を一覧にして統一しておく手間を惜しまないほうがよい。

理解したかをどう確認するか

教材を平易にしても、実際に理解したかどうかは別に確認する必要がある。うなずいているだけでは、理解しているのか、聞き取れていないのに愛想で応じているのか区別がつかない。

有効なのは、口頭での説明を求めるのではなく、選択式の設問で反応を見る方法である。3択のように答え方が単純な形式であれば、日本語での説明力に関わらず理解度を確認できる。誤答した設問があれば、その項目だけ絵や動画で補足するといった対応もしやすくなる。

理解度の確認を毎回同じ担当者が行うと、担当者の主観で「分かっているだろう」という判断が入り込みやすい。設問形式で機械的に正誤を記録する方法であれば、担当者の主観に左右されず、誰が確認しても同じ基準になる。

記録に残すときの注意

外国人労働者の教育記録には、氏名の表記に注意が要る。パスポート表記とローマ字表記が一致しない、あるいは在留カードの氏名と現場での通称が異なる場合があり、記録上の同一人物であることを後から追えなくする原因になる。

個人情報の取り扱いについて説明する場面でも、説明そのものを本人が理解できる言語・平易さで行う必要がある。同意を取る手続きだけを日本語の書面で済ませ、内容の説明を省略するのは、本人が理解しないまま同意したことになりかねない。

国籍が多様な現場では、同じ絵や色使いでも文化圏によって受け取られ方が異なる場合がある。危険を示す色として赤を使うことは比較的共通しているが、細かい記号やジェスチャーの意味は国によって差がある。教材を作る段階で、複数の国籍の作業員に実際に見せて反応を確かめる手順を挟むと、思わぬ誤解を事前に防げる。

技能実習生・特定技能それぞれの教育義務の詳しい範囲は、技能実習生への安全教育|日本語が読めない前提で教材を作るで扱っている。日々の安全教育を記録として積み上げる考え方は、毎日のKY活動を記録に変えるを参照してほしい。

本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。個人情報の取り扱いや在留資格に関する解釈は、社会保険労務士・行政書士等の専門家、または所轄の機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。


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よくある質問

Q. やさしい日本語と多言語化はどちらを先にやるべきですか。

やさしい日本語を先に整えるほうが現実的です。全言語の翻訳を用意するには時間がかかりますが、やさしい日本語の教材は日本語を母語としない作業員全体に対して一定の効果があります。

Q. 動画教材と文字教材のどちらが理解されやすいですか。

日本語の習熟度が低い作業員には、動画のほうが理解されやすい傾向があります。正しい動作と危険な動作を対比させる短い構成にすると、文字での説明を減らせます。

Q. 理解度の確認はどう行えばよいですか。

口頭での確認は、理解と愛想での相槌を区別しにくいという弱点があります。3択のような単純な設問形式で反応を見るほうが、日本語の説明力に左右されにくくなります。

Q. 教育記録の氏名表記で気をつけることはありますか。

パスポートや在留カードの表記と、現場での通称が異なる場合があります。同一人物であることを後から追えるよう、記録に使う表記をあらかじめ統一しておく必要があります。

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