解体工事や改修工事の着工前に行う石綿の事前調査は、以前は「担当者が目視で確認すればよい」という運用が少なくありませんでした。しかし現在は、誰が調査してよいかという資格要件、調査結果を国に報告する義務、調査記録を何年保存するかまでが規則で具体的に定められています。調査を省略した状態で解体に着手すれば、石綿粉じんへの暴露事故だけでなく、法令違反としての責任も発生します。
この記事では、解体業の管理者が押さえておくべき事前調査の資格要件、電子報告の対象となる工事規模、記録の保存年限を、石綿障害予防規則の条文に沿って整理します。
事前調査を終えた現場でも、作業員一人ひとりが石綿の危険性と当日の措置を理解しているかは別の課題です。安全ドリル+は、QRを読むだけで石綿を含む解体作業の要点を毎回思い出させ、記名の教育実施記録として残す仕組みです。
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解体工事で石綿事前調査が必要な理由
石綿は、吹き付け材、保温材、成形板など建材に広く使われてきました。解体・改修工事で石綿含有建材を破砕・切断すると、石綿繊維が飛散し、作業員だけでなく近隣住民が吸引するおそれがあります。石綿は吸引から数十年後に中皮腫や肺がんを発症させる可能性があるため、着工前にその建材に石綿が含まれているかを確認する事前調査が、対策の出発点になります。
石綿障害予防規則第3条は、建築物、工作物、船舶の解体・改修等の作業を行う事業者に対し、あらかじめ石綿の使用の有無を調査すること、その結果を記録することを義務づけています。事前調査の結果、石綿が含まれていると判明した場合に初めて、隔離・湿潤化・保護具着用などの具体的な措置に進みます。事前調査の質が、その後のすべての対策の前提になっています。
2023年10月1日から — 事前調査は有資格者でなければ行えない
以前は、事前調査を誰が行うかについて明確な資格要件がありませんでした。この点は2020年の石綿障害予防規則改正で見直され、経過措置期間を経て、2023年10月1日以降は一定の知識を持つ有資格者でなければ事前調査を実施できなくなっています。
石綿障害予防規則第3条第4項は、目視や設計図書等による事前調査(分析調査を伴わないもの)について、厚生労働大臣が定める者に行わせなければならないと定めています。担当者の経験や勘に基づく判断は、この要件を満たしません。有資格者を確保できないまま着工日を迎える事態を避けるため、発注段階から調査担当者の手配を組み込む必要があります。
対象となる資格 — 建築物石綿含有建材調査者等
事前調査を行う資格として代表的なものが、建築物石綿含有建材調査者です。国土交通大臣・環境大臣の登録を受けた登録講習機関の講習を修了し、試験に合格した者に付与されます。調査対象の建材の範囲に応じて、一般建築物石綿含有建材調査者、一戸建て等石綿含有建材調査者、特定建築物石綿含有建材調査者の区分があり、一戸建て等石綿含有建材調査者は戸建て住宅や共同住宅の住戸に調査範囲が限定されます。
分析による調査(建材のサンプルを採取して石綿含有の有無を分析する調査)を行う場合は、これとは別に石綿含有建材分析調査者の資格が必要です。発注者・元請は、依頼する調査会社がどの区分の資格を保有し、対象建物の構造・規模に対応できるかを、契約前に確認する必要があります。
事前調査結果の電子報告 — 対象工事の規模と施行日
一定規模以上の解体・改修工事については、事前調査の結果を電子システムで報告することが義務化されています。石綿障害予防規則の関連改正により、2022年4月1日から、石綿事前調査結果報告システムを通じた報告が運用されています。
報告の対象となる工事規模は、解体工事が延べ床面積80平方メートル以上、改修工事が請負代金の合計額(税込)100万円以上です。これらの基準を下回る小規模な工事であっても、事前調査そのものと記録の作成・保存の義務は免除されません。報告義務の対象規模と、事前調査の実施義務の対象範囲は別の基準であるため、混同しないよう管理する必要があります。
記録に残すべき事項と保存年限
石綿障害予防規則第3条第7項は、事前調査等を行ったときに作成すべき記録の事項を具体的に定めています。主なものは次のとおりです。
- 事業者の名称、住所及び電話番号
- 解体等の作業を行う作業場所の住所並びに工事の名称及び概要
- 事前調査を行った建築物、工作物又は船舶の構造、及び事前調査を行った部分
- 事前調査の方法、材料ごとの石綿等の使用の有無及び判断の根拠
- 事前調査を行った者の氏名及びその資格を証明する書類の写し(有資格者による調査が必要な場合)
- 構造上目視が困難な材料の有無及び場所
- 分析調査を行った場合は、分析調査実施者に関する情報
これらの記録は、調査終了日から3年間保存することが第3条第7項で定められています。工事完了後すぐに廃棄してよいものではなく、着工前の状態を後から説明できる資料として、一定期間手元に残す義務があると理解しておく必要があります。
事前調査を怠った場合の責任
事前調査を行わずに解体・改修工事に着手した場合や、無資格者に調査を行わせた場合は、石綿障害予防規則違反にあたります。石綿障害予防規則は労働安全衛生法に基づく省令であり、同法上の是正指導の対象になるほか、悪質な場合は労働安全衛生法に基づく罰則(懲役又は罰金)の対象となり得ます。
行政上の責任にとどまらず、調査を怠ったまま石綿を含む建材を破砕した場合は、作業員や近隣住民の健康被害という取り返しのつかない結果につながります。記録の不備は、後日そうした被害が生じた際に、事業者側の説明責任を果たせない状態を招きます。
今日からできる事前調査の実務チェックリスト
- 解体・改修工事の発注段階で、調査担当者が該当区分の有資格者(建築物石綿含有建材調査者等)であることを契約書面で確認する
- 対象工事の規模(解体は延べ床面積80平方メートル、改修は請負代金100万円)を確認し、電子報告システムへの報告要否を着工前に判定する
- 石綿障害予防規則第3条第7項が定める記録事項を、着工前にすべて埋められる様式で準備する
- 事前調査の記録を、調査終了日から3年間参照できる場所(電子データ・書面の両方)で保管する
- 分析調査が必要な建材があるかどうかを、目視調査の段階で調査者に確認してもらう
調査後の作業員教育、現場の違和感の記録も別に整える
事前調査で石綿の有無が判明した後も、実際に隔離養生や保護具着用を徹底するのは現場の作業員です。手順の理解にばらつきがあると、調査結果が現場の行動に反映されません。原因分析の型化にはWhyTrace Plusがなぜなぜ分析の記録・共有に対応しており、現場のヒヤリハットは安全ポスト+がQRから投稿できます。
本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、専門家または所轄の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
まとめ
- 石綿障害予防規則第3条は、解体・改修等の作業前に石綿の使用の有無を調査することを事業者に義務づけています
- 2023年10月1日以降、事前調査(分析を伴わない調査)は厚生労働大臣が定める有資格者でなければ実施できません(第3条第4項)
- 建築物石綿含有建材調査者等が代表的な資格で、対象範囲に応じて区分が分かれます
- 解体工事は延べ床面積80平方メートル以上、改修工事は請負代金100万円以上の工事は、事前調査結果を電子報告システムで報告する義務があります(2022年4月1日施行)
- 事前調査の記録は、調査終了日から3年間保存する義務があります(第3条第7項)
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よくある質問
Q. 小規模な改修工事でも事前調査は必要ですか
石綿障害予防規則第3条は工事規模を要件にしておらず、解体・改修等の作業を行う事業者に事前調査を義務づけています。電子報告システムへの報告義務は請負代金100万円以上等の基準がありますが、報告不要な小規模工事であっても事前調査と記録の作成・保存の義務は残ります。
Q. 事前調査は必ず建築物石綿含有建材調査者に依頼しなければなりませんか
目視や設計図書等による事前調査は、厚生労働大臣が定める有資格者が行う必要があります。建築物石綿含有建材調査者はその代表的な資格ですが、対象建物の構造・規模によって必要な区分(一般建築物・一戸建て等・特定建築物)が異なるため、依頼前に対象範囲を確認してください。
Q. 事前調査の記録は紙と電子データのどちらで保存すればよいですか
石綿障害予防規則は記録の媒体を指定していません。調査終了日から3年間、必要なときに内容を確認・提示できる状態で保存されていることが重要です。
Q. 電子報告システムへの報告を怠った場合はどうなりますか
報告義務がある工事について報告を行わない場合、石綿障害予防規則違反として是正の対象になり得ます。報告要否の判定を着工前に済ませ、報告漏れが生じない運用にしておくことが望まれます。
Q. 事前調査の結果、石綿が含まれていないとわかった場合も記録は必要ですか
石綿が含まれていないという判断結果も、第3条第7項が定める記録事項の一部です。調査を行った事実と判断根拠を記録として残す必要があります。
なお、ヒヤリハットの収集は姉妹アプリの安全ポスト+が担う。現場と組織の登録は2つのアプリで共有している。